ブーンミコ酢 ブーン系過去作まとめ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

(-_-)は世界を救うようです  まとめ読み

3 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:19:30



【 一 】



光っては、消え。また明るくなっては部屋を闇に染める。



蛍光灯がちらちらうるさい。

もうすぐ切れるそうだ。

この光が二度と点かなくなったら

太陽も二度と昇らない。

そう決めている。



部屋の向かい側、来客のようだ。

おやおや、

あなた様はGではありませんか。

噂は聞いておりますよ?

そこらでブイブイ言わせているそうじゃないですか。

世間はあなたのことを『闇黒の貴公子』と呼んでいますよ。
.



4 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:20:26

そうですね……もう夏ですもんね……

あなたの季節ですよー。まったく。

そうだな……せっかく来てもらったのに……出せるお茶菓子は無いんですよね……

何をお出ししましょうか……



あれ? もうお帰りになるんですか?

あらあら

同族嫌悪ですか……?

いやはや、失礼。

あなた様のほうが上に決まっておりまする。

こともあろうに、私めはこんなに暗い部屋であなたをお出迎えすることに……

って、あなたならむしろ暗いほうが好きでしたね。



そうそう、

この光が二度と点かなくなったら、太陽も二度と昇らない。そう決めている。

これは嘘でした。
.


5 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:20:55

そう、真っ赤な嘘なのです。

太陽も二度と昇らない。そう決めたときには既に

光はもう無かったのです。

そうです。私は太陽を昇らせたくなかったのです。

釣られた皆さん乙です。

って釣り宣言は自らするもんじゃありませんよね。wwwwサーセンwwww



……さてと…………

行きますか……



そして、だ。

僕は走って家を出たわけだ。

誰もいない、光もついていない。

完全な廃墟からの脱出さ。

マントを翻してそういうことをすれば、たちまちカッコイイだろう。
.


6 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:21:24

あいにく、不幸にも、アンフォーチュネトリィ、

マントなんて着ていない。

そう、紙の中を飛び回るヒーローのように、空を飛ぶためのものならなおさら持っているはずもない。

だけど僕は空を飛ぶんだ。

この冷たいコンクリートを着たビルの上から。

ほら、高いだろ?

僕の目の前に高圧的にね、聳え立っているよ。



僕はできるだけ速く、階段を駆け上った。

昔からこれだけは得意だった。

意味も無く凄い勢いで階段を駆け上がるんだ。

変人扱いさ。

別にどうでもよかったけど。


.


7 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:21:52

さあ、着いた。

ここからの眺めは本当にいい。

その理由? 知らないね。



背後に、強く、風が吹きつけた。

背後だ。背後。

僕にじゃない。

風も僕を嫌うのかい?

そう思って後ろを振り返った。



('(゚∀゚∩「やっほー」

ほう、よくできた幻覚だ。

じゃあ僕は飛び降りることにしようかな。

手摺りを越すように体重をかけ……

('(゚∀゚;∩「ちょ、ちょちょちょちょーーーー!!」

(-_-)「…………何?」

元の位置に重心を直す。
.


8 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:22:36



後ろに現れた男はマントを羽織っていた。

青黒い、夜の闇と同化しそうな、いかしたマントだ。

('(゚∀゚∩「話があるんだよ!」

(-_-)「…………そうかい……」

(-_-)「お名前は?」

('(゚∀゚;∩「……え?」

そんなに予想外だったろうか。

(-_-)「……いや……話があるって言われてもねえ……いきなりっていうわけにもいかないでしょ……」

男は狼狽しながらも納得したようだった。

('(゚∀゚∩「……あ、ああ……なるほどね……」

('(゚∀゚∩「僕の名前は『なおるよ』だよ!」

(-_-)「変な名前だね」

('(゚∀゚;∩「ちょ……君に言われたくないなあ……『ヒッキー』……」

(-_-)「……僕の名前を……知ってる……?」

まあ、それぐらいのことは当り前なのだろう。
.


9 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:23:09

('(゚∀゚∩「知ってるよ! 君の事は大体把握してるんだ!」

(-_-)「…………まあ……予想はついていたけどさ……」

僕の後ろに、風と共にやってきたんだ。

人間なわけがない。

だが、そんなことはどうでもいい。

早くこの会話を終わらせたい。

面倒なことになりそうだ。

だが、どうしても気になることがあった。

それを聞かないと、どっちにしろ通さないつもりなんだろう。

(-_-)「……じゃあ話を本題に戻そうか…………君は一体何者で、なんで僕の前に現れたんだい?」

('(゚∀゚∩「……そうだったそうだった……じゃあ一つずつ説明するからね……」



('(゚∀゚∩「まず、僕の存在だけど、これは『神みたいなもの』と、考えてくれていいんだよ!」

(-_-)「……神?…………信じられないな……」

嘘だ。

別に信じてもいい。
.


10 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:23:47

('(゚∀゚;∩「……ちょ…………しょうがないな……僕は君が自殺しようとしていた理由も知ってるんだよ?」

(-_-)「へえ……じゃあ聞かせてもらおうか……」

('(゚∀゚;∩「……え……いいのかい……」

普通の人間は自殺の理由なんて他人から聞かされるのは嫌だろう。

(-_-)「僕が望んでいるんだ」

わざわざこうする必要はないのだが、

('(-∀-∩「……分かった…………君はあまりにも不幸な人生を送ってきた……」

絶対的な自信があった。

('(-∀-∩「君の両親は、君が幼い頃ケンカ別れをしているね……なぜか夫婦仲は最悪だった……

       君はどちらにも引き取られることは無く、天涯孤独の身になった……君の所為じゃないはずなのにね……」

絶対にわかりっこない。

('(-∀-∩「学校でも悲惨だったね……義務教育の期間はずっといじめられてきた……

       かなり酷い……内容のいじめだったね……」

絶対当てさせない。

('(-∀-∩「孤児院でも……国家の扶助も受けたみたいだけど、もう就職できるようになってからは見離された……

       就職活動をいくらしても……世界は君を相手にしなかった……」



(-_-)「お見事…………全部外れだ」
.


11 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/03(金) 15:24:31

('(゚∀゚;∩「…………?」

いい気味だ。たいそう不思議そうな顔をしている。

(-_-)「君が言ったのは僕が自殺しようとした直接的原因じゃないよ」

('(゚∀゚∩「…………」

(-_-)「僕はね、もうどうでもいいんだ。この世界なんてどうでも……

     いつまでいても仕方ないから都合の良いときにでもおさらばしようと……それだけさ……

     人生を悲観して……ってわけじゃない……」

('(゚∀゚∩「……そうかい……でもまあ、どっちにしろ同じ様なもんじゃないのかい?……」

少し呆れたのか、男はそんなことを言った。

(-_-)「まあそうだけどね」

答えたら、思わず顔が弛んだ。



(-_-)「さあ……じゃあ僕のもとに現れた目的というものを聞こうか?」

('(゚∀゚∩「やっと話せるよ!…………いいかい……」





('(゚∀゚∩「君が死んだら世界は滅びるんだよ!」



へえ、よくできた嘘だね。

勝ち誇ったような、なおるよの顔に少し憤りを感じながら、心の中でそっと呟いた。


.


12 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:31:52



【 二 】



(-_-)「それで?」

('(゚∀゚;∩「へ…………」

それで……って……

(-_-)「僕はこの世界のことなんてどうでも良いと言ったろ?」

('(゚∀゚∩「あ……ああ……」

そうだった。決めゼリフを吐いただけで目的が達成されたわけじゃなかった。

だが、ヒッキーは必ず踏みとどまる。……そうは思っていたが……

(-_-)「じゃ、話が終わったんならこれで」

また手摺りから身を乗り出した。

('(゚∀゚;∩「ま、待てって! 死なれたら困るんだよ!」

ヒッキーは呆れて言った。

(-_-)「……君が困ろうと知ったこっちゃないんだけどなあ……」

当然の返答だ。

自殺を決め込んでいる相手に自分本位な倫理が通るわけがない。
.


13 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:32:34

('(゚∀゚;∩「み、三日で良いんだ! あしたあさってその次の日が終わるまで生きていてくれれば、

      後は君の自由にさせてあげるよ!」

(-_-)「……三日?」

('(゚∀゚∩「あ、ああ。それまで生きてくれれば世界は保たれるんだ」

どうも納得のいっていないヒッキーに言葉を畳み掛ける。

('(゚∀゚;∩「悪いようにはしないよ! 三日間、楽しませてあげるよ。

      なんでもいい、君の好きなことをさせよう。だから僕のわがままを聞いてくれ!」



ヒッキーは少し考えた後、言葉を漏らし始めた。

ふと、天を仰ぎ見、

(-_-)「……今日は……晴れている…………どうでもいいけど……」

空には星が浮かんでいた。雲は一切無かった。

月は100%の輝きを以ってここら一帯を照らしている。

「明るすぎるんだよ、まったく……」と、ヒッキーは付け加えた。



(-_-)「……さしずめ……君は世界の管轄者で……世界が滅びたら困る……

     僕はこの世界に必要とされている……四日目が始まるまで……

     ……まあ、かなり現金な世界だこと……」
.


14 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:33:09



「分かった。承諾する」



「……明日の朝から、僕の部屋に来てくれ。僕の部屋は……君なら知ってるだろ?

 最後の三日間、楽しむというのも悪くない……どうせ『僕の世界』は終わるんだ……

 みんなの世界にいくらか迷惑をかけて死ぬのも……まあ、おもしろそうだ……」

ヒッキーの顔は少し笑っていた。本当に少しだけ。

ほくそえんでいるかのような、幽かな邪悪さを覗かせた。

「ありがとう」とだけ言っておいた。

言われた彼も変な気がするだろうが。

別に、僕のため、というわけじゃないのだろうから。



(-_-)「そうそう……」

振り返って、僕に言った。

(-_-)「そのマント、かっこいいね」

ビルの中に、消えていった。


.


15 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:33:55

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼

それにしても、

あいかわらずここは暗い。

「お帰り」

「ああ、ただいま」

「人間に干渉したモナね?」

「もちろんだよ!」

「…………ふざけるのはやめにするモナ」

おどけてみても叱責は容赦なく飛びつく。

「……悪かったよ……どうやって知ったんだい?」

「そんなことどうでもいいモナ。勘で鎌かけたら偶然当たったモナ」

「そうでしたか……」

「人間に干渉してはいけないのは知ってるモナ?」

「もちろんだよ!」

「…………一体誰に干渉してきたモナ?……」

っちぃ……今度は釣れなかったか……

モナーの、明らかに不快そうな顔を眺めながら、心の中に唾を吐いてやった。
.


16 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:35:20

「誰でもないよ。……救世主さ……」

「……救世主?」

「多分君にはどうでも良いんだろうね。僕はこれからも干渉しまくってくるから後はよろしくねー」

ここはひとまず逃げとこう。

僕はいつもやっているように、闇に融け始めた。

「ちょ……待つモナ!…………」

へへっ。ざまぁ。

( ´∀`)「…………救世主……モナ?」

僕の目が融ける寸前、そう呟くモナーの顔が見えた。怪訝そうな顔だった。

何を考えるだろうか。

何をしようとするだろうか。

あいつにヒッキーのことは知られてはまずい。

なるべく分かりにくい表現で混乱させるように仕向けたが、

うまく行ってくれることを願うしかない。

今日はひとまず寝ることにしよう。

明日に備えて。

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
.


17 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:35:56



チャイムを鳴らす。

指が確実にボタンを押した。……?

鳴らない……。どうなってんだこの家は……

そこで、僕はドアを叩く作戦に変更した。

一発、二発、三発目で拳は空振りになった。

(-_-)「うるさいな……起きてるよ……」

('(゚∀゚∩「やっほー。起きてたのかい。……ところでチャイムが鳴らないんだけど?」

「やっほー」と言ったとき、ヒッキーは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

そして続けて、

(-_-)「電気止められた」

('(゚∀゚;∩「あ、そうか……」

淡々と答えるその声には、絶対的な力が籠っていた。

有無を言わせない強さがあった。

無論、有無を言うつもりは無いけれど。



(-_-)「ところで」

('(゚∀゚∩「ん?」
.


18 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:36:49

(-_-)「どうしようか?」

('(゚∀゚∩「何を?」

(-_-)「今日は楽しませてくれるんだろ? だけど何するべきか分からないんだ」

('(゚∀゚;∩「あ……ああ……確かにね……」

昨日、僕がヒッキーに出会うまでは、ヒッキーにとってこの日は存在しなかった。

('(゚∀゚∩「……じゃあどうする?」

(-_-)「僕に聞かれてもな……」

('(゚∀゚;∩「いやいや、それはこっちのセリフだよ……」



空気が、止まった。

それが、本来のこの世界の姿なのか。

ヒッキーにとっては夢の中を彷徨っているようなものなのだろう。

それでも僕には時の流れが感じられる。風が吹きつけている。

('(゚∀゚∩「……じゃあさ……今欲しい物言ってみてよ」

とりあえず、目の前に目標を作ることが大事だ。

(-_-)「……?……ああ、なるほど……欲しい物ね……」
.


19 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:37:33

ヒッキーは僕の後ろで風に靡いている物を凝視して、

(-_-)「……マントが欲しいな……」

('(゚∀゚∩「マント? 一体なんでそんなものを──

(-_-)「いいから。とにかく買いに行こう。欲しくなった。僕は金持っていないけど、君は持ってるんだよね?」

('(゚∀゚;∩「? あ、ああ。そりゃ持ってるけどさ……」

確かに金は持っている。僕は無限に金を持っている。僕らの特権だ。

(-_-)「じゃあ行こう」



ヒッキーは肩で風を切って歩き出した。

僕が「待ってくれ」と言う前に彼は立ち止まった。

(-_-;)「……マントってどこで売っているんだろう…………」

…………まあ……確かにマント買う人なんてそうそういないけど……

('(゚∀゚∩「……衣類売り場じゃない?」

答えらしきものならあっさり出る。

(-_-)「…………行ってみてから考えるのがいいね……」

また歩き出したが、もう肩で風を切れるほどじゃなかった。
.


20 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:38:00



衣服の店に向かう途中。

些細な疑問をヒッキーに軽く当ててみた。

('(゚∀゚∩「…………ねえ……」

(-_-)「うん?」

('(゚∀゚∩「どんな色のマントが欲しいんだい?」

(-_-)「……うーん………………緑だね」

('(゚∀゚∩「緑?」

(-_-)「……深い……どこまでも暗い緑…………

     僕の好きな色なんだ……」

('(゚∀゚∩「……濃い深緑って感じ?」

(-_-)「……そうだね…………黒に緑を混ぜた感じの色でさ……」

('(゚∀゚∩「何でその色が好きなんだい?」

(-_-)「…………好き嫌いに理由なんて無いよ……」

そうだね。と軽く肯いた。
.


21 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:38:44



数分経つと、僕らは衣類の専門店の中にいた。

さっそく、外套の売っているコーナーに行く。

ヒッキーの足は、なぜか速かった。

急ぐ必要もないのに、速かった。

彼はすぐに一つのマントを取って

(-_-)「これだ…………」

見事な緑色だった。

深く、濃く、闇を連想させるような緑色。

('(゚∀゚∩「それでいいのかい?」

(-_-)「ああ……」

('(゚∀゚∩「着てみてくれよ」

試着してもらわないと、困る。

いろんな意味で、気が引けるから。

(-_-)「そうだね……」
.


22 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:39:24

その場で、ヒッキーはマントを羽織った。

結果はというと。

様になっている。

しっかりと、丈も合っているし、幅も合っている。

(-_-)「……似合ってる?」

('(゚∀゚∩「うん。いい感じだよ」

(-_-)「じゃあこれ貰おうかな……」



僕らはレジで会計を済ませ、外に出た。

ヒッキーは外に出るなりマントを羽織りなおしたが、「暑苦しい」と言ってすぐにマントを畳んで腕に抱えた。

「せっかく買ったのに」そう言うと、「君はよくそんなものをずっと着ていられるね」

だと。

真夏の七月。それが普通か。



その後数十分、僕らは町を練り歩くことになった。

何も考えずに歩くと、自然とそうなる。
.


23 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:40:04

(-_-)「…………あてがないね……」

('(゚∀゚∩「……まあねえ……」

やはり、ヒッキーもただのウォーキングには飽き飽きしてきたのだろう。

とはいえ、彼にとってしたいことは何なのか。したいことなど一つも無いのかもしれない。

いや、むしろその方が自然ではある。

心の中までは僕にも分からない。

('(゚∀゚∩「……君は気難しいからな……」

(-_-)「…………自分でもそう思うよ……」

ヒッキーは笑った。

笑うしかない。か。

(-_-)「……そうだ、遊園地に行こう」

('(゚∀゚∩「……遊園地?」

(-_-)「今まで行ったことがない。遠足とかでしか…………そして楽しんだことも……ないね……」

確かにヒッキーはそんな奴だった。

なあに、僕は知っているだけ。知っている『だけ』だ。

('(゚∀゚∩「…………今では……遊びたくなったのかい?」

(-_-)「……いや……違うと思う」

ヒッキーは、また笑った。

自嘲気味に。
.


24 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:40:54



それから電車を使って、近くのテーマパークに行くことにした。

「僕は階段の昇り降りにかけてはかなり自信があるんだ」

駅に入るとき、ヒッキーは突然そう言って、僕に勝負を挑んだ。

僕はその勝負を引き受けることにした。

結果。

僕の負けだった。

ヒッキーは本当に速かった。

階段の4段飛ばしは当り前。

そもそもスタートダッシュが、サービスなのか5段飛ばしだった。

「どうだい、なかなかのもんだろ?」

ヒッキーは勝ち誇ったような顔をした。

こんなことをしている自分に呆れながら。というような顔だった。

「ああ、なかなかのもんだった」

答えた自分まで、そんな顔になった気がした。
.


25 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:42:03



歩くこと数分。僕らは遊園地に辿り着いた。

(-_-)「……ホントに金大丈夫なの?」

('(゚∀゚∩「え? 大丈夫だよ」

(-_-)「……いやあ……心配でね……まあ、マントぐらいならいいかと思って黙って奢られたけど……

     さすがに遊園地までもねえ……と思ってさ」

本当に、ヒッキーはいい奴だ。

('(゚∀゚∩「僕のことは心配するなよ。……金ならいくらでもある……」

そうは答えたが、それは違ったような気がしていた。

ヒッキーは、金のことだけを心配しているわけじゃない。そんな考えが僕の心に浮かんで、

それはやはり現実になった。

(-_-)「あ……いや……だからって金があるからとかそういう問題じゃなかったかな……」

('(゚∀゚∩「…………」

('(゚∀゚∩「わかるよ。気が引けるんだね」

(-_-)「……まあ、そういうことさ…………」

ヒッキーは遊園地のチケットをしっかり手に持ってそう言った。

それがどうも滑稽に思えたのは、僕がおかしいからだろうか。
.


26 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:43:19



('(゚∀゚∩「コーヒーカップにでも乗ろうか?」

(-_-)「…………酔いそうだな……」

('(゚∀゚∩「この際さ、ハンドル全開で酔って酔って酔いまくって、そこらじゅうにぶちまけるってのもいいんじゃない?」

冗談半分。半分は本気だ。

僕も何かぶちまけたい気分だった。

(-_-)「……面白そうだけど、さ……」

面白そう、かつ、面白くなさそうに、会話は続いた。

(-_-)「酔っても自分が惨めになるだけじゃない……別に惨めな気持ちになってもいいんだけどさ……

     なんというか……めんどくさいな…………」

('(゚∀゚∩「……まあ、そうだね……じゃあメリーゴーラウンドにでも乗るかい?」

(-_-)「どっかいじって高速回転かい?」

('(゚∀゚∩「面白そうだ」

面白くなさそうなアトラクションは無いのか?

なんてことを言い合いながら、僕らはずっと笑ってた。
.


27 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:44:11



もう日も落ちそうな時間になってしまった。

僕らは、そこら辺にあるアトラクション全てを制覇した。

絶叫物を除いて。

(-_-)「落下の恐怖は死ぬときだけでいい」

彼は一人呟いた。

('(゚∀゚∩「やっぱり恐いのかい?」

僕も絶叫物は嫌いだった。

(-_-)「ああ」

('(゚∀゚∩「……だよね……まったく」

(-_-)「楽しむために来てるのにさ、変じゃない。怖い思いをするなんてさ」

宙を駆け巡る鉄の箱を目の前に、ヒッキーは最高にシニカルになった。ニヤニヤしながら。

この世は言ったもん勝ちだ。

僕には『じぇっとこーすたー』なんかよりも、ヒッキーのほうが数倍大きく見えた。

('(゚∀゚∩「でもさ

      あの乗り物はどうだい? あれに乗って楽しい思いができるかな?」

僕の指先は、観覧車に突き刺さっていた。

今日は、あれにはまだ乗っていない。
.


28 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:44:56

ヒッキーはじっとその回る物を見物して

「さあね。つまらなさそうだ」



「じゃあ、つまらない思いをするのも面白いかもしれない。乗ってみようか」

と、二言。



僕はすかさず承諾した。



( ´_ゝ`)「ときに弟者よ」

(´<_` )「なんだ? 兄者」

( ´_ゝ`)「客人だぞ」

(´<_` )「本当だ。客人だ」

観覧車の入り口のところにいたこの二人は、どうやら職員のようだ。

('(゚∀゚∩「観覧車に乗せてよ!」

(-_-)「あ、どうも…………」

(´<_` )「どうぞどうぞ。フリーパス持ってます? うんうん。じゃあどうぞごゆっくり」
.


29 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:46:07



観覧車の中。

(-_-)「ねえ……」

('(゚∀゚∩「ん?」

(-_-)「さっきの従業員さあ……顔似てたね……」

('(゚∀゚∩「あの二人? そうだね。多分双子だと思うけど」

(-_-)「……あれは変な奴らだったね……」

吹いてしまった。

('(゚∀゚∩「wwwwちょwwwwwwwいきなり何言ってwww」

(-_-)「……見るからに変人だったじゃないか……特に兄者とか言われてたほう……」

('(゚∀゚∩「そう? 僕には弟者とか言われてたほうが変人だと思ったけど──

「多分どっちも変人だww」

僕らは、同時に気づき、同時に腹をよじった。

ほんとに、失礼な奴らだ。



(-_-)「そうだ……」
.


30 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:47:34

ヒッキーは腕に抱えていたマントを羽織り始めた。

観覧車の中に、青褐のマントの男と鉄色のマントの男。

「どうみても闇取引だ」

まったくだ。と、一番変人なのは自分達だということに気づいて静かに笑う。



外は、すっかり暗くなっていた。

街灯りは燦然として。

頂上に到達した観覧車の中は未だに暗かった。



('(゚∀゚∩「…………なあ……」

(-_-)「……ん?」

('(゚∀゚∩「好きな子とか……いなかったのか?」

…………いなくても、おかしくなさそうだ。彼なら……

(-_-)「……いたよ……普通に考えて人生で一度も誰かを好きにならない人はいないでしょ……」

ヒッキーの答えがどうであれ、僕は何か物悲しくなった。

('(゚∀゚∩「……そりゃそうだよな……」

(-_-)「君はどうなの?」
.


31 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:49:01

('(゚∀゚∩「…………覚えてないんだ……」

(-_-)「…………」

('(゚∀゚∩「かれこれ……この仕事始めて300年は経つんじゃないかな……

      僕も昔は生きていたみたいだけどね……」

(-_-)「……生きていた時のこと覚えてないの?」

('(-∀-∩「……ああ……もうそりゃ……僕は、いつでも生きられて、いつでも死ねるような存在……

       そんなものになって300年も経てば……生きていたという事実も、どうでもいい事実……」

('(゚∀゚∩「……僕に好きな人がいたかどうかなんてこともね…………」

……やっぱり自分で言ってしまうとと悲しくなる。

どうでもいいはずなのに。だ。

(-_-)「…………」

無意味に、いや、それでも確実に静寂は続いた。



ヒッキーが口を開いた。

(-_-)「……本当に……バカバカしい……生きているのなんてさ……

     世界の動きに合わせて…………僕らは動いているだけなのか?」
.


32 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:49:43

僕は、静かに頷くことしかできなかった。

僕も、そんなバカバカしい世界の一員で、彼もそうだ。

ただ

('(゚∀゚∩「……んじゃあさ…………この世界が想定しなかったことを起こしてみないかい?」

(-_-)「ん? どういうこと?」

('(゚∀゚∩「……あと二日経ったら死ぬつもりなんだろ?……その好きだった子にちょっとアタックしてみれば?」

(-_-)「…………死ぬのにかい?」

ヒッキーは厭な物を見る目をしていた。僕の方を向いているわけじゃなく、この世界全てをそう見るように。

('(゚∀゚;∩「……無神経……だったかな…………それでも後悔だけはしてほしくないからね……」

それは本当だった。

彼にも、後悔しない権利ぐらいある。

世界が、いくら彼を後悔させたがっているとしても。

(-_-)「…………迷惑だろ……」

('(゚∀゚∩「……君はこの世界に迷惑をかけていきたいんじゃなかったのかい?」

多分違う。それは分かってた。
.


33 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:50:16

(-_-)「……そうだね……迷惑をかけようか……」

('(゚∀゚;∩「…………はあ?」

それでもヒッキーは期待を裏切る。

(-_-)「…………伊藤に……好きだったって言って……玉砕して──



「彼女に知られないようにして死のう……」



伊藤。ヒッキーの好きな人の名前だ。

『知られないようにして』

ヒッキーの表情には一切変化が無かった。

ねえ、それどういう意味だい?

僕には、そう訊く勇気が無かった。



僕は観覧車から近づく地面を眺めた。

(∀゚∩「…………終わりだね……」

(-_-)「……そうだね……」
.


34 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:51:11

観覧車の入場場所を見た。

( ´_ゝ⊂(´<_`#)

( ´_ゝ`)「痛いじゃないか」

(´<_`#)「うるさい。お前が変なこと言うからだ」

……従業員の兄弟が喧嘩をしている。

('(゚∀゚;∩「……やばいよ!……どうする……?」

(-_-)「…………まあ、とりあえず様子を見よう……」

喧嘩するほど仲が良いとでも言いたいのだろうか?

ヒッキーはどこまでも傍観的だった。



(#´_ゝ`)「俺のどこが変なんだ? え?」

(´<_`#)「『俺もマントが欲しい』と言ったことだ!」

(#´_ゝ`)「マント、かっこいいではないか!」

(´<_`#)「はあ? さっきの二人に感化されただけだろうが!!」
.


35 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:51:57

(#´_ゝ`)「何を?! 昔からあんなのに憧れていたんじゃーい!!」

(´<_`#)「はあ? あんな変人の真似することにか?」



('(゚∀゚∩「」

(-_-)「…………」

('(゚∀゚∩「……変人…………ね……」

なんだか頭が真っ白になった。

確かに変人であることは否定しない。むしろ、さっきは確かにその通りだと思っていたのだ。

ヒッキーの表情は、さも当り前のような感じだった。

達観してるね。



(´<_`#)「…………ったく……もう大人なんだぞ?」

弟者は、兄者を起こして、後ろを振り返った。

Σ('(゚∀゚;∩「はっ……」

Σ(;´_ゝ`)(´<_`;)そ「うあっ……」
.


36 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:52:45

目が合ってしまった。

(;´_ゝ`)「……弟者…………?」

(´<_`;)「ん……んーん……んんん?……」

('(゚∀゚;∩「…………」

(-_-)「…………」

ヒッキーだけは少しだけニヤニヤしていた。

(´<_`;)「あ……あの……その…………」



(´<_`;)「……そのマント、カッコイイですね……」

('(゚∀゚∩「…………」



「ありがとうございます」

僕らはそそくさと立ち去った。

('(゚∀゚;∩「……まったく……人の悪口は言うもんじゃないね……」

(-_-)「……まったくだよ…………」

「変人」と、先に言っていたのは僕らのほうだった。
.


37 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:53:35



('(゚∀゚∩「…………ヒッキー……?」

(-_-)「ん?」

('(゚∀゚∩「…………空が綺麗だね……」

僕は何を言っていいのか分からなかった。

空は、そんなときに役に立つ。

(-_-)「…………そうだね……とっても綺麗だ……」

今日は闇黒。

街の灯りが酷いのか、星は見えないし、雲は見事に月を殺している。

しばらく、沈黙が続きそうだ。

(-_-)「……ねえ……」

('(゚∀゚∩「え?」

僕の予想はすぐに外れる。

ヒッキーはいつも予想外なことをしてくれる。

(-_-)「地球ってなんで回ってるんだろうね?」
.


38 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:54:13

('(゚∀゚∩「……難しい問題だね…………」

辺りを見渡した僕の目には、

あの回転する物達が見えた。

僕は、自分の妄想に、正直感心して、笑った。

笑わずにはいられなかった。

('(゚∀゚∩「……観覧車とかが回る理由とおんなじじゃないかな……?」

今では、そんな風に本気で思った。

(-_-)「……へえ……じゃあ地球なんか回して……誰かが儲かってるのかな……?」

('(゚∀゚∩「……そうかもしれないね」

(-_-)「……入場料は何だろうね?」

('(゚∀゚∩「…………僕らの愚行を見て楽しむことじゃないかな?」



あははははは

おっかしいな、

笑っちゃうよ。

('(^∀^∩「……本当に……バカバカしいよ…………へ……へへ……」

ヒッキーの口の端も、吊りあがっていた。
.


39 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:54:56

なんか、もう、どうでも良かった。



遊園地から出た後。

('(゚∀゚∩「ヒッキー! 明日は伊藤さんのところ行って玉砕するぞ!」

(-_-)「…………ああ……もちろんだ……」

最高にテンションは上がっていた。

さあ、この世界を踏み荒らしてやるんだ!

そんな感じのテンション。

そう、僕らは明らかに正常じゃない。

('(゚∀゚∩「じゃあ、明日も迎えに行くから待っててくれよ!」

(-_-)「分かった」

僕はヒッキーのもとを去った。

走って。

まっすぐな一本道の中、

そのままあの世界に消えることもできたが、

僕はそのまま走っていきたかった。

この長い一本道を、滑走路にして。


.


40 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:55:40

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼

「お帰りモナ」

「ああ、ただいま……」

烏羽色のマントが、お出迎えしてくれた。

「?……どうしたモナ?……何か良いことでも?」

「……分かるかい?」

「顔、よく見てみるモナ」

ニヤついてるんだろう。自分でも分かっている。

「え~? 分からないよ~。あいにく鏡無いだろ? ここ」

「ほら」

モナーは淡々と手中に鏡を出現させ、僕に向けた。

「……ったく……いつの間にそんなもん手に入れたんだよ……」

僕は精一杯呆れた。

だが、呆れられているのは僕だ。

「……なかなか分からないモナ」

「何が?」
.


41 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:56:21

「救世主モナ」

自分のした間違いに気づいた。

昨日、モナーにそれだけでも言うべきじゃなかった。

後の祭りだ。

「……救世主って……君には関係ない話だろ?」

「関係あったら大変だろ?」

「…………関係あっても大丈夫だって……君には迷惑かけないからさ……」

嘘だ。多分迷惑はかかる。

だが、大したことじゃない。

怒られてもモナーなら分かってくれるような気もする。

「……自分だけのことを心配しているわけじゃないモナ」

一気に、自分の周りが遅くなったような気がした。

「…………何かとんでもない規則違反をしたら、君の身が心配なんだモナ」

こんな奴なんだ。分かってくれるよな。きっと。

「……規則違反したって別に罰せられたりしないだろ?」
.


42 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/04(土) 16:57:16

「……! そんなことを言ってるんじゃないモ──

「それと!!



 …………ありがとう……心配してくれて……」

本当の気持ちだ。

こればかりは。



モナーは、一回溜息を吐いた。

そりゃあ溜息も吐きたくなる、分かるよ。

「……………………大丈夫モナね?」

「…………うーん……もう疲れたし……寝ようと思うよ……」

「……そうモナね……おやすみ……」

モナーは先に、闇の中に紛れて消えた。



僕の姿もその場から消えた。

どう処理すればいいかわからない、溜息を残して。

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼


.


43 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 15:58:52



【 三 】



ヒッキーは生きているだろうか。

無駄にそんな不安に駆られた。

おかしな奴だ。

僕も彼も。

そう思いながらヒッキーの家のチャイムを押す。

…………そうだった……鳴らないんだった……



「何してるの?」

Σ('(゚∀゚∩「!」

(-_-)

相変わらずの無表情が、左から現れた。しかも昨日のマントも着ている。

確かに、今朝は涼しい、夏の朝だ。

('(゚∀゚;∩「……いや……もちろん迎えに来たんだけど……」

(-_-)「……まあ、そうだね……」

('(゚∀゚∩「あー、と……じゃあさ、早く伊藤さんに会いに行こうよ!」

昨日のテンションは、いくら頑張っても再現できなさそうだ。
.


44 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 15:59:33

(-_-)「……そうだね…………ところでさ……お腹空かないかい?」

('(゚∀゚∩「……僕は空かないけど……そうだね、昨日何も食べてなかったんだね……」

彼は人間だ。

昨日何も食わなかったのに文句一つ言わなかった。

(-_-)「お察しの通り、僕には飯を食うための金も無いよ……」

ヒッキーの目は僕の方に向いた。

自嘲? 催促?

その目が表しているのは、どちらでもないような気がした。

('(゚∀゚∩「……じゃあどこに食べに行く?」

(-_-)「……コンビニ弁当でおk」

('(゚∀゚∩「別に贅沢言ってもいいんだよ? 金なら無限にあるし」

(-_-)「ならなおさら……貨幣価値を落とさないようにしなくちゃ……ね?」



「その通りだ」と、僕はヒッキーの提案を承諾した。

僕らはそのままコンビニに向かい、弁当を購入した。
.


45 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:00:27

('(゚∀゚∩「あ、言い忘れてた」

(-_-)「何を?」

('(゚∀゚∩「やっほー」

ヒッキーは明らかに不快そうな顔をした。



無言で、貪った。

コンビニの前に居座って。

会話は無かった。

ヒッキーの貪り速度は、「腹減りには慣れているんだ」と雄弁を振るっていた。

その遅さも相まってか( ^ω^)←こんな顔のコンビニ店員は迷惑この上ないと言いたげな顔をしていた。

黒いマントを着た男二人が、店の前で居座って弁当を無言でゆっくり貪っている。

確かに、迷惑この上ないだろうな。

('(゚∀゚∩「ヒッキー、他所に行こう」

(-_-)「……そうだね……でもゴミ箱のあるところじゃないとね……」

ヒッキーは不満があるかのような仕種で立ち上がった。

('(゚∀゚∩「ゴミ箱ねえ…………」

僕は変な想像をしてしまった。

ヒッキーはポイ捨ての一つもしたことが無いのか?

僕はその疑問を、その通りに投げかけた。
.


46 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:01:00

「いいや。あるよ」

「…………そりゃそうだよね」

「……もちろんポイ捨てなんて常習的にやってたわけじゃない……

 ……子供の頃に、数回やっただけだよ…………でもさ……」

「でも?」

「……あのときのポイ捨ての天罰で、僕の人生は酷いことになったのかな……なんてさ……」

「………………だといいね……」

「……ああ……ほんと、そうだよ……でも、絶対にそうじゃない…………だから……ね……」

許せない。と。

そうだね、ヒッキー。



僕は切に願った。

ヒッキーがこんな目にあっているのは、ポイ捨ての所為でありますように。

誰か、他人の所為ではありませんように。

そして、この世からポイ捨てが無くなりますように。

叶わない願いを、切に。
.


47 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:01:34



('(゚∀゚∩「…………さあ……行こうか……伊藤さんに会いに」

(-_-)「……うん」

僕らは駅に向かった。

弁当の殻はゴミ箱に捨てた。

駅の構内、

タバコの吸殻をちりとりに集めていた清掃員がいた。

「ポイ捨てしても、ゴミ箱に捨てても、誰かが片付けてくれるんだよね」

僕は呟いた。

「誰にも迷惑がかからなければ、ゴミは放置されるんだよね……」

そう言ったヒッキーは線路の中を見ていた。

一方が焦げた白い棒状のものがたくさん存在している。

「……そういえば、ゴミの埋め立て処理場って、そういう寸法なんだよね……今初めて気がついたよ……」

「……気にしなければ誰も気づかないよ、そんなこと」



数分後、電車はゴミを隠すように僕らの前に止まった。
.


48 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:02:12



電車の中、

僕はやはりヒッキーにもう一回訊いておくべきだと思った。

('(゚∀゚∩「ヒッキー、本当に伊藤さんに会いに行くんだね?」

(-_-)「もちろんだよ……」

自信無さそうに見えたのは、気のせいであってほしい。

('(゚∀゚∩「……本当に愛の告白、するんだね?」

(-_-)「…………そうだね……そりゃするつもりだよ……」



(-_-)「……」

ヒッキーの顔が、いつになく暗かった。

いつも暗いけど。

('(゚∀゚∩「……どうしたんだい?」

(-_-)「……伊藤の笑顔ってね……最高に素晴らしいんだよ…………」

ヒッキーの顔は、笑ってはいなかった。

('(゚∀゚∩「…………」

「ひょっとしてそれは惚気で言ってるのか?」

そんなこと言える雰囲気じゃなかった。
.


49 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:03:21



電車は時間通りに駅に着いた。

伊藤の通っている大学の最寄駅。

ヒッキーの顔は、やはり変わっていなかった。

('(゚∀゚∩「…………ホントに大丈夫かい?」

(-_-)「…………これはもうだめかもわからんね……」

('(゚∀゚;∩「ちょ……いきなり何言ってんだよ!」

「大丈夫」

そう答えてくれると思っていた。愚問だと思っていた。

ヒッキーは笑っていた。

気がおかしくなってしまったのだろうか。



足は勝手に進む。伊藤のいる大学へ。

淡々と、淡々と。

覇気なんて物は一切無しで

どこまでも作業的だった。
.


50 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:04:01



('(゚∀゚∩「……じゃ……行ってらっしゃい……」

(-_-)「……うん……」

大学に入っていくその姿は

不審者そのものだった。

理由は、

マントを着ているから。

などではない。



数分経った。

ヒッキーはどうしているだろうか。

門のところにいる守衛に伊藤の居場所を聞いているのは見た。

学校の中を迷いはしていないだろうか。

人のことを待つのは異常に疲れる。
.


51 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:04:52

いつからこんなにんげn……奴になったんだろうか。

もともとか。

モナーはしっかり仕事をしているのだろうか。

…………って300年も先輩にそれは失礼か……

というより、僕だな。一番仕事をしていないのは……



そして数分後

ヒッキーは戻ってきた。



(-_-)「…………ただいま……」

('(゚∀゚∩「おかえり!……で……どうだった?」

「不躾だよね」

「ごめんごめん」

ヒッキーの、適当に返した、僕に対する

その優しすぎる表情は

まったくもって、二度と見たくない。
.


52 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:05:34

「…………楽しかったよ……」

ヒッキーの顔が快晴になる。

「…………告白……は?」

ヒッキーの顔には一点の曇りも無かった。

「……してないよ」



さあ。



何喋ろうか?



ねえ、会話はどうしたの?



「……どういうことなんだい?」

僕は怒りのようなものも覚えていたのだろうか。

ヒッキーは少し唸って、俯き、また顔を上げ、

「……伊藤の顔ね…………とっても素敵だったよ……」

その言葉は、最高にすがすがしくて。
.


53 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:06:15

「……中学時代と変わらない……笑顔だった……」

僕は目を逸らしたくなった。

「でもさ、……ここで僕が告白したらどうなる?……

 あの笑顔は消えちゃうでしょ……?」

「……もし、……君のこと……伊藤さんが好きだったら?」

愚問。

「……んなはずないでしょ……彼女は断るはずだ……」

「何でそんなこと!──

「分かるよ……」

僕は認めたくなかったのかもしれない。

僕はどこまでも恥ずかしい奴だ。まったく。

「何年も会っていない……会おうともしていない……それに、彼女は僕に優しくしてくれたけど、

 その優しさは誰にでも等しく与えられるものだった……」

分かっていたのに。

たぶん僕は分かっていた。
.


54 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:06:47

「……それでいい。……彼女はそうあるべきだった。そうでなければ僕も彼女のことを

 好きになりはしなかったさ……」

ヒッキーを唆して。

「うまく行けばいいな」なんて思って。

「……それでもさ……想いを伝えることは重要じゃないの?……」

悪あがき。

「……どっちにしろ伊藤の顔からあの美しい笑顔は消えて無くなる……」

怒っていたのだろうか。言葉の質量感が常軌を逸していた。

「理由はこうだ。まず場合分けして考えよう……

 付き合うことになる場合。僕が不幸を呼ぶ。伊藤をボロボロにする。

 僕はどうも世界に嫌われているようだし……?」

聞いていられないぐらい饒舌で、見ていられないぐらい作り笑い。

「君の言うとおり、思いを伝えることが最重要だとしよう。

 つまり、伝えて振られる場合。断るために彼女は考えなければならない。

 そこでまた笑顔が消える……

 あの優しい彼女が、考え無しに僕をバッサリと捨てるはずがない。

 ……別に驕り高ぶったり、買い被ったりしているわけじゃないよ…………」

そう言って自嘲的な笑みを。
.


55 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:08:14



僕たちの間に、大きく厚い、空気の壁ができたようだった。

「僕には彼女の笑顔だけでいい……あとなんにもいらない……

 逆に『付き合って』って言われても……迷わず振ったね……」



「…………ヒッキー……」

僕は狼狽した。

彼は天を仰ぎ、言った。

細い、切れそうな声で。

「…………何で……なんで……泣いてるの……かって……?」

僕の口は力不足に封じられ。

「……さあ……な……何で……だ……何でだろうね……?」

孤独な世界に、一人

二人

やっぱり一人

「……後悔……なんて……していないさ……

 だから……かな……?……泣いているのは……」
.


56 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:08:49



どんなに力不足な奴でも言えるのは。

「……ヒッキー……君……酒飲んだことある?」

「……酒…………無いね……」

「……飲みに行かないかい?」

このぐらいで。

「………………いいや……断るよ……」

彼の、赤い、涼しい目に別の感情を宿せたとしても、

僕の心は、曇って。



数分後、ヒッキーは「……もう大丈夫だ……落ち着いたから……」

と。笑ってみせた。

僕は咄嗟に歩く。駅の方角へ。

('(゚∀゚∩「……付いてきてよ」

立ち止まって後ろに告げる。

(-_-)「……どこに行くんだよ……」

その、「もう疲れた。寝させろ。」

とでも言うような感じの顔に。
.


57 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:09:58

('(゚∀゚∩「まあ、いいからいいから」

(-_-)「…………酒は飲まないって決めてるんだ……」

硬派な奴だ。癪に障るぜ。

なんてことはない。僕も実は酒なんか好きじゃない。

('(゚∀゚∩「大丈夫だよ。酒を飲ませるつもりは無いからさ」

僕は20%ぐらい強引にヒッキーを電車に連れ込んだ。



また電車に乗ること数時間

ヒッキーの家からは随分離れ、

既に陽も落ち

(-_-)「…………どうやって帰るんだよ……」

('(゚∀゚∩「なあに、そんなに長居するわけじゃないよ」

ヒッキーは来たこともない街の灯の明るさに辟易していた。



('(゚∀゚∩「さあ、ここだよ!」

店の前に出ている看板には『バーボンハウス』

(-_-)「……バーボンハウス…………いかにも酒しか出てこなさそうだけど?」

苦笑い、店の中に入ることになった。
.


58 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:10:32

(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ。このみりんはサービスだからまず落ち着いて──

('(゚∀゚;∩「……サービスにみりん飲ませるの?」

(-_-)「……ちょうどいいんじゃない? むしろ度数も本みりんなら高いぐらいでしょ……」

何もかも受け入れるような横目で、辺りを眺めていた。

(´・ω・`)「……あれ、君は……なおるよ君かい? 久しぶりだね」

('(゚∀゚∩「お久しぶりです。それより店に入ってきた人に盲目的にサービスする癖、なおしたほうがいいですよ」

(´・ω・`)「うーん……確かおいしいものたべてといれにいってねればなおるんだっけ?」

('(゚∀゚;∩「…………そう考えている時期が僕にもありました……」

(-_-)「……………………」

背中に違和感。

('(゚∀゚;∩「?……ああ、ごめんごめん!……マスター、僕の友人です」

(´・ω・`)「そうかい?……お名前は?」

(-_-)「……ヒッキーです」

ヒッキーは小さく言って頭を垂れた。

(´・ω・`)「ヒッキー君……ね……把握した……」



「──じゃあ、注文を聞こうか」

マスターはとても上機嫌そうだった。
.


59 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:11:34

('(゚∀゚∩「……酒は飲めませんよ、彼も」

(-_-)「……ええ、……まったくその通りです」

(`・ω・´)

(´・ω・`)ショボボーン



木の茶色の壁、淡い黄橙の間接照明に映えている。

BGMはアイスピックと静かな談笑の音色。

店内には見渡したところ奥のほうに二人の男女、もう少し手前に二人組の紳士がいた。

('(゚∀゚∩「……ショボンさん……儲かってる?」

(´・ω・`)「……それは聞いちゃいけないよね、ごめんなさいしないといけないよね」

面倒なのでごめんなさいするつもりは無い。

(-_-)「……ちょっと質問なんだけど」

('(゚∀゚∩「ん?」

(-_-)「マスターさんとはいつ知り合ったの?」

('(゚∀゚∩「…………そんなこと興味ある?」

この店で一番なさそうな人間だろう。

「……ある」

さらっと言われて、何か気が抜けた気がした。
.


60 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:12:42

('(゚∀゚∩「……そうだね……8ヶ月ぐらい前じゃなかったかな……」

「冬の寒いときだったなあ……」

溜息が混ざって出た。

(-_-)「……どうして酒も飲まないのにこんなところへ?」

(´・ω・`)「それは僕も聞きたかったよね。教えてくれないと言うんならごめんなさいしないといけないよね」

('(゚∀゚∩「ごめんなさい」

(´・ω・`)

(´;ω;`)ブワッ



('(゚∀゚∩「僕はその日仕事をしていてね。偶然妙な噂を聞きつけたんだ」

(-_-)「……店内に入った瞬間サービスを出す店……ってこと?」

('(゚∀゚∩「“くわいと そー。”(その通りです)だよ! それで事の真偽を確かめるためにバーに来たんだよ!」

そこまで言うと、ショボンさんは激昂しはじめた。

(´・ω・`)「それで、彼が店に入ってきたとき、『サービスありますか?』って聞いたんだぞ

      ほいほいサービス出したら『あ、サービスは要りません』だってぶち殺すぞって言っちゃったじゃないか」



「日本語でおk」

僕らが発したその言葉は、マスターの涙腺を直撃したようだった。
.


61 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:13:40

「涙脆いっていいことだよ。ほんとに」

ヒッキーがあまりにいけしゃあしゃあと、言うもんだから

「たぶんそういう問題じゃないよね、ごめんなさいしないといけないよね」

僕は少しだけマスターの味方になった。

「ごめんなさい……w」

僕らの下げる頭は、かなりお手頃価格だ。



また店には静かさが戻った。

さっきまでいた客も全部はけていた。

(´・ω・`)「……さ、もうそろそろなんか飲まないかい?……酒以外も置いてあるんだよ?……

       って、なおるよ君は知っているよね……グレープジュース飲んでったし」

('(゚∀゚∩「そうでしたそうでした……じゃあ今日はブルーベリージュースを……」

(-_-)「…………じゃあ僕はアセロラで」

(´・ω・`)「残念。それは在庫切れだ」



('(゚∀゚∩「嘘でしょ?」

(´・ω・`)「うん。嘘。今から出すから待っててねー♪」

……なるほど……『にくそい』とはこの感情のことか……
.


62 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:14:31

マスターは超ご機嫌でジュースの戸棚を開けた。

光速でコップも出し、僕らの前に置き、ジュースはいつの間にかその中に満ちていた。

('(゚∀゚∩「仕事速いですね。じゃあいただきま──

(`・ω・´)「ちょっと待った!」

一呼吸置いて、また空気が流れ出した。

(`・ω・´)「君たちにはショットガンで飲んでもらおう!」

('(゚∀゚;∩「……ショットガンって……炭酸入れて、机に叩きつける奴ですか?」

(-_-)「……痛そうだね」

どこかバーの空気は、ずれていた。

(`・ω・´)「おうともよ! ちゃんと炭酸も置いてあるぞ! 今から出すからな!」

そういって、また棚を開けた。



あ、あ、

ゴキブリだあ。

(´・ω・`)

(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
.


63 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:15:03

(-_-;)「待って!!」

マスターの顔は

(´・ω・`)

「はあ?」と言っていた。

('(゚∀゚;∩「ちょ……一体どうしたっての……」

ヒッキーは、今までで一番焦っていた。それを見た僕もだが。

(-_-;)「……多分もうすぐこの店から出ていくよ……玄関開けてください。マスター……」

(´・ω・`)「…………うん……まあ……いいけど……」

マスターは玄関を開け放した。

少し涼しい風が入ってきて、

浮遊。

闇の塊は、風に逆らい、外へ流れた。

そのとき、ショボンさんはその影にぶつかりそうになって

情けない声を出したことには敢えて触れないことにしておく。
.


64 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:15:43



('(゚∀゚∩「……どうして分かったんだい?」

何か超能力でもあるのだろうか、と思ったが

(-_-)「……いや……なんとなく……」

ただ、中空を見つめ

(-_-)「…………なんとなくだよ……」

少し微笑んで、一気にドリンクを飲み干した。



マスターは何か呟いていた。

(´・ω・`)「…………ショットガン……」

('(゚∀゚;∩「そんなことに固執していたんですか……」

(-_-)「……じゃあ、おかわりください」

マスターの顔はその言葉を聞いた途端、ぱっと明るくなって、またしぼんだ。

「…………もうどうでもいいや……今日はサービスするから好きなだけ飲んでってよ……

 ……僕も飲もうかな……こういう日ぐらいは……さ…………」

「……客もいないし?」

最後に付け加えて、苦笑い。
.


65 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:17:24



その後、僕らは三時間ほどバーで遊んだ。

遊んだというよりも、時間を徒に流しただけ。

マスターに「後ろの戸棚の内訳全部kwsk」とか、

マスターが僕達に「そのマントどこで買ったの」とか、

ショットガンしてむせたとか。

「だらしのない」

そう言ったマスターが一番むせていたとか、他にもいろいろ。



それでも、

最高の三時間が流れていったことには変わりなかった。



('(゚∀゚∩「じゃあ今日はこの辺で」

(´・ω・`)「ああ、なかなか楽しかったよ。夜道は気をつけてな」

「ここら辺はそんなに治安が悪いんですか?」

ヒッキーは笑っていた。
.


66 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:17:48



涼しい夜道、月は段々老いていく状況だ。

確か二日前は満月だったっけ。



(-_-)「…………今何時だと思ってるの……」

('(゚∀゚∩「……10時」

(-_-)「……家に帰りつくの何時になるだろうね……」

('(゚∀゚∩「……さあね……」

(-_-)「…………いよいよ明日か……」

人生最後の日。それはヒッキーの中では既に決まっていること。

('(゚∀゚∩「……別に……生きてもいいんだよ?……」

ヒッキーは5秒経って突然笑い出した。

「無理に決まってるじゃないか……笑わせないでくれよ……本当に……」

気持ちの悪いぐらい、最高の笑顔だった。

無理もない。当然だ。

他でもない、

この状況を、ヒッキーの人生を愚弄しているのは

この僕だ。
.


67 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/05(日) 16:18:36

何も考えずに発言するもんじゃない

僕の浅はかさは意外と重症だ。

ヒッキーは死ぬことが決まっているからこうしている。

生きる希望なんて、生きるつもりなんて

とうの昔に無くなっているのだ。

どっちみち──そう、どっちみちヒッキーは死ぬ。確定事項だ。

だが、もう遅い。

もう電車に乗ってしまった。

ヒッキーは寝てしまった。

「どうでもいい」と言わんばかりに。

臆病な僕には

もう謝れそうにない。



数時間経って、僕らは最初の駅に戻ってきた。

「明日も迎えに来るから」

僕がそう言うと

「じゃ、おやすみ」

ヒッキーはそう、短く答えた。

その姿は、暗くて、よく見えなかった。

ずっと遠く、霧の中にいるようで。



僕は、まったくだめな奴だ。

夜の闇にいくら融けても、その念は変わらなかった。


.


68 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:16:31



【 四 】



僕は

不覚にも

生きたいと

願ってしまっている。



光の無い部屋の中、この暗黒の緑のマントの中で気づいてしまった。



いいや、

これは夢の三日間

終わったらなおるよにも……



…………見捨てられる……



それがそんなに寂しいかい?
.


69 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:17:26

いつからそんな情に絆されるようになった……?

いいや、これも幻想だ……

だからあと一日、

あと一日耐えれば、

そんなことを考えなくてすむ。



もう寝よう。

今頃何考えても変わらないだろうし、

変えたいとも──

いや、もうどうでもいい

だから寝させろ。

寝させろ。



部屋の中には光が入っていた。

蛍光灯はとっくの昔に切れていたのに、

なんで太陽は昇っているんだろうね。
.


70 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:18:06

改めて部屋の中を見る。

汚い。

でも、虫は一匹たりとも湧いてない。

なんだか面白くなった。

もうこの部屋には帰らないし、何があっても。

だから……まあ欲しがる虫がいたらあげようか。

「いないけど? どこ探しても」

あの日のGでもいい。

答えてくれたら嬉しかったかな。少しだけ。



チャイムが鳴った。

……ああ、なおるよか。

(-_-)「はい?」

('(゚∀゚∩「やっほー」
.


71 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:19:01

(-_-)「どうも……」

僕はそのようにしか答えることはできなかった。

適切な言葉はなかなか見つからないものだ。

それなのに昨日は……………………よく喋ったよな……

('(゚∀゚∩「今日はどうする?」

(-_-)「…………どう……?」

ああ、願いを叶えてくれるんだっけ。

(-_-)「…………僕に望みはもう無いんだけどな……」

('(゚∀゚∩「…………まあ……そうだろうね……」

場には静寂が蔓延る。風の音だけが通り過ぎていく。

もともと僕もなおるよも、喋らないタイプの人間なのだろう。

居心地が良いとも、悪いとも…………まあ、それはどうでもいいことか。



僕は良いことを思いついた

(-_-)「…………じゃあ……君の好きなことをさせてあげよう……」
.


72 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:19:41

('(゚∀゚∩「え────」

予想通りの反応。

ふざけているわけじゃない。真面目に言っている。

(-_-)「君にしたいことは無いのかい? できることなら手伝うよ」

そう聞くと、なおるよは唸っていた。

無いのだろう。

あるわけないか。

(-_-)「…………したいことが無いのは惰性でこの世にいるから?」

('(゚∀゚;∩「……っ……まだ何にも言ってないよ…………まあ……大正解……だけど……」

「心を読まれた!」さしずめそんな顔だ。

僕はほくそ笑み、彼は苦笑い。



どうしようもないので、僕はどうでもよかった質問をすることにした。

(-_-)「……君はさあ……………………何者なの?」

('(゚∀゚∩「……何者…………か……」

困った顔に、「黙秘権はあるよ」と言うと、僕らは小さく笑っていた。
.


73 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:20:23

「……さあ……行こうか」

「どこへ?」

「まあ……あてもなく歩くのも良いじゃないか……」

「……最後の日なのに?」

「…………だからこそ……かもね……」

空気のように僕らは流れた。

留まっていたのは、僕らの声と、皮肉雑じりの笑みの跡。



('(゚∀゚∩「ところでさ」

(-_-)「?」

('(゚∀゚∩「どうして僕にしたいことなんて聞いたの?」

……そんなことを聞かれるとは思っていなかった。

それは僕も、君も……ってところかい?

(-_-)「…………助けさせてもらえなかったから……かな?」

('(゚∀゚∩「……助けさせてもらえなかった?」

(-_-)「……そう。誰も僕に助けてくれなんて言わないからね……」
.


74 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:21:02

僕には、助けてくれと言われるのが幸せかどうか分からない。

皆、こと足りているんだ。

僕に必死に助けてくれって言ったのは……君が最初かな?

だから……まあ、この際だから、ついでに何か必要なことでもあれば助けてあげようかと……

どうせ……まあそんな物好きも君ぐらいだろうし?

無駄な嘲笑と共に、そうなおるよに言った。

「……今助けてもらっている最中だし……別に必要なことは無いさ……優しい奴だな……君は……」

と、返された。無駄な嘲笑と共に。

嘲笑の矛先は、この世界そのもの。

そう……全てだ……



走っていた。

僕は走っていた。

何があったんだっけ?

走るのをやめよう。

そう思っても、走り続けている。

いつまで息は続くのだろうか。
.


75 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:21:50

何があった?

混乱した頭を整理する。

########################################

「……早く逃げろ!!」

「……何言ってるモナ……逃がさんモナ……!」

僕は必死に走り出していた。

意味が分からなかった。

だめだ、もっと前を思い出さなくては……



……そうだ……

……いきなり現れたんだ……真っ黒に、少し紫を混ぜたような色のマントの優しそうな顔の男が……

( ´∀`)「……ここにいたモナか…………君はヒッキー君モナね?」

なおるよはその場を離れていたっけ……ジュース飲むことにして……なおるよが買いに行ったんだっけ……

……妙な語尾の男が現れて…………そう、僕が問いに答えるか否かの時点で

手にフォークを持ってたな……あの……悪魔の持っているような刺又みたいなやつ……

( ´∀`)「……いきなりで悪いけど……死んでもらうモナ……」
.


76 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:22:20

それでさっきのやりとりだ……

なおるよが駆けつけて……それでなおるよも武器を持っていた……

ただの鉄パイプだったかな……どうでもいいけど……

僕の眼前にまで来ていた、その男のフォークを弾いた。

('(゚∀゚#∩「こいつは死神だ!……世界を滅ぼすために君を殺そうとしている!!」

(;´∀`)「……な!……何をとち狂ったことを……!」

('(゚∀゚#∩「……早く逃げろ!!」

########################################

……こういうことだ……

えーと……僕は……そうだ、逃げたんだ……

……あれ?……何で逃げてるんだ?

僕に逃げる必要なんて……

この世界を滅ぼさないため?

…………んなバカな……
.


77 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:23:02

……まあ……どっちにしろ……なおるよが困るんだっけ……世界が滅びたら……

そう、自分をごまかしてなら、走れた。

あれ……自分をごまかしている?

分からない。何でだ?

余計混乱してきた。

いい加減、休んで少し落ち着いて

それから考えないか?

僕は走りながら複雑なこと考えるほど

頭の作りはよろしくないんだよ。



気が付いた時にはどこかのビルの裏に座っていた。

歩かなくて良いのか? 逃げてんじゃなかったのか?

「悠々自適としてるなあ……」と、思わず声に出た。

空を見上げ、青い光が目に沁みて、

不意に足元を見る。

Gがいた。
.


78 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:23:49

「おやおや……一体全体どういう……」

当然答えるはずもない。それでおk。

Gは答えに困っていたのだろうか、触角を振り回すだけだ。

「……君は…………」

そこまで言って、声が出なかった。

出すべき言葉も見つからない。

少しだけ首と一緒に雑念を振り払う。

「……君はあのときのGかい?……それとも……バーにいた?」

どちらでもないのかもしれない。そして、僕にはそれを見分ける力は無い。

……それに、どこかで出会ったかなんて、そんなことはまったく関係のないことだ。

「……逃げろ……僕についていると殺されるぞ……多分」

真っ赤な嘘だ。

分かっている。狙いは自分だけだということを。

「すまないね……ちょっとヒーロー面したかったのさ……」

それも嘘だ。

多分。

自分の行動に一切納得がいかない。

僕はベンチから離れ、また走り出した。
.


79 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:24:28



やっぱり体は正直で、ずっと走り続けることなんかできなかった。

歩いていると心には余裕ができるものだ。

ボーっとする頭で、僕はこの三日間のことを思い出していた。



########################################

マント……

何であんなもん欲しがったんだろ……

そのマントはというと、今も僕の背中で風に靡いている。

深く濃い緑。見ようによっては、

汚い。

こういうときは「僕にはお似合いだ」とでも自嘲しておけばいいのだろうか?



なんでこんなもん欲しがったんだっけ?

本当に分からない。

ただ、

買ってもらったとき、嬉しかったのは間違いなかった。
.


80 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:25:15

あの観覧車の兄弟が言ったとおり、

ただの変態だけど、そんなことはどうでもいい。

そういえば、あの兄者とかいう……変態さんのほうはマント手に入れたのかな?

手に入れて……何するんだろ……

…………どうでもいいんだよね……そんなこと……

########################################

観覧車……

今もあの遊園地の中で回っているんだろうか

あそこからみた景色は……

汚い街の灯りと、あまりにも黒くて綺麗すぎる空。

そんなくだらないものを見せるために今日も回っているのかね。

あのコーヒーカップも

ジェットコースターも

動いているのは金のためなのは明確だけどさ……



まあ、だからこそ

どうでもいいんだろうね……
.


81 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:26:02

########################################

駅で遊んだっけ、

階段早登り。

圧勝だったなあ……

当り前か……

僕の唯一の特技なんだしね……

……駅のホーム、……また汚くなっているのかな……

でも掃除するのは僕じゃないから

おばさんだから……ね……

…………どうでもいいんだよね……

……僕は鬼畜だなああ、あ…………

########################################



ああ……気分が悪くなっているようだ……なんか涙も出てきたし……

もう歩き続けるのも良くない。
.


82 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:26:33

走ろう。

心が壊れそう? だから



########################################

バーのマスター……

いやー……また飲みたいな……

あの人面白かったし……

変なプライド捨てて……酒飲みまくって……

いや、飲まれて……何もかも忘れてさ……

大騒ぎしたいよ……。なおるよも混ぜてさ……

でも、もう僕は死ぬことが決まっているんだ

生きるのは無理。

そんなことあのビルの上に立ったときから変わっていない。

だからさ

…………どうでもいいんだよね……そんなこと……
.


83 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:28:15

########################################

……伊藤

今どうしているんだろう……昨日会ったばかりなのにね……

なんで気にしちゃうんだろ……



僕の目の前のほうから、伊藤はやってきていた。

(;-_-)「……あの……すみません……」

うろたえてしまった。

('、`*川「……?……なんでしょうか?」

眼が幾つあっても足りないぐらい、もっと綺麗になっていた。

中学時代もそうだったが、今ではその比じゃない。

(;-_-)「僕は……ヒッキーというんですけど……覚えてますか?」

('、`*川「え?……あの中学にいた……ヒッキー君?」

……ああ、覚えていてくれたんだ。

(-_-)「……はい、そうです……ヒッキーです…………お久しぶりですね……」

('、`*川「……久しぶりね……あ、敬語はいいわ……楽にして……」

そう言った伊藤の笑顔は、最高にかわいかった。頭がおかしくなりそうなぐらい。
.


84 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:29:02

(-_-)「……あ……ありがとう…………」

僕は必死で隠した。伊藤の顔を見つめてしまいそうだったから。

('、`*川「……一体どうしてこんなところに……?」

(-_-)「……あの……その…………会いたかったから」

('、`;川「え?……私なんかに?……そんなに親しくなかったのに……」

(;-_-)「!……いや……そうなんだけど……昔お世話になった人に……お礼が言いたくなって……

     それで君はいろいろと助けてもらったし……だから……」

口からでまかせ。いや、あながち間違いでもない。

僕が世話になったのは彼女だけだ。

他のものは、憎いぐらい。

彼女は素直に納得してくれていたようだった。

(-_-)「……その……ありがとうね……」

彼女は首を横に振った。

('、`*川「……私なんか……お礼を言われるようなことは何もしてないわ……」

(;-_-)「そんなことないよ!……君のおかげで生きる希望も見えたんだ!!」



それは

本当だったのだろうか
.


85 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:30:06

彼女の曇りかけた笑顔は、優しい笑顔に戻っていた。

('、`*川「…………ありがとう……」

(-_-)「……今……どうしてるの?」

('、`*川「?」

伊藤が変な顔をしていた。その顔も美しかったが。

そりゃそうだよな……質問が悪すぎた。

(-_-)「……今は……その……大学に通っているのは分かっているけど……

     どんな勉強して…………つまり……今、幸せかい?」

日本語でおk。本当に訊きたいのは最後の二言だ。

('、`*川「……うーん……まあ幸せかなー…………ヒッキー君はどうなの?」



一番、されてはいけない質問。



「……今?…………今ね……



 ……………………僕はすっごく幸せだよ……」

嘘。

いや、『今』だけは嘘じゃない。
.


86 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:30:46

満面の笑みで。

僕の覚えている限り最大の、最高の笑顔で。

伊藤の目にはどう映ったのだろうか?

それだけが心配だ。

嘘だと見破られてはいけない。

彼女が悲しむから。

だから、これだけは赦してほしい。

誰に願うわけでもないが。

「……僕も大学行ってるんだけどね、なかなか勉強も順調に行ってるし、仕事も見つかった

  幸せすぎて困るよ、ほんとに。……そう、あの頃ではあり得なかった……

  でもさ──

僕は両手を広げて、示した。

  ──やっと僕の時代が来たんだ!」



伊藤は優しく微笑んで頷いていた。
.


87 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:31:38

「……聞いてくれてありがとう……僕はもうそろそろ帰ることにするよ……」

「…………そう……」

少しだけ寂しがってくれているような笑み。

やめてくれ、帰れなくなるじゃないか。

「……ここまで頑張れたのも……君のおかげさ……君の励ましを思い出して……

 僕には敵ばかりじゃないって……危うく自殺するところだったこともあるんだ……

 今では、僕をいじめてた奴らの身の心配ができるまでに回復したんだ。

 特に厭なあいつは、そうだな、煙草吸ってたけど……ホントに……肺がんとか……シャレにならないし……

 他の奴らも下らないことに現を抜かして天罰とか下ってなきゃいいけど……ホントに……

 心に余裕や希望ができた今では、本当に何もかも幸せだ……

 自分のするべきことがなんなのか、見つかったし、趣味もそこそこ持ってるし……」

僕は言葉を並べた。

こんなに細かく言う必要も無いだろうに。

たぶん、僕は伊藤を納得させるために、伊藤に見えを張るために

伊藤さえにも羨ましがってもらえるように、必死だったんだろう。
.


88 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:32:15

本当は何より寂しいんだ。

でも僕には時間が無い。

僕はそのままの流れで別れの言葉を告げ、伊藤から見えなくなるまで走り続けた。



伊藤は微笑んでいた。

伊藤は僕の嘘を見抜いていたのかもしれない。

それで気を遣ってくれて。かもしれない。



それでも、あのときの僕の喋ったことは真実だ。

二人だけの真実。

そう考えると、堪らないほどの幸せが心に舞い込んでくる。

だけど、

もう彼女とは会えない。

そう、会えないんだ。

もうそうなってしまっている今、そんな真実なんて……

どうでも──

########################################
.


89 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:36:40



──どうでもよくないよ……。

僕はもう走らなかった。

……認めるのは悔しいよ。



僕は生きたがっているんだ。

あのとき伊藤に話したことは本当の意味での真実にまで昇華されちゃったみたいなんだ。

不可能って分かっているのに、まだ生きれるんだ。

でもさ、やっぱり絶望を思い出したら死だけが待っているんだろうな……

……なんだよ……『絶望』って…………なおるよに言ったじゃないか……

この世を悲観して死のうと思っているんじゃないって……

それも認めざるを得ないか。

いや、もう今となっては何でも認めよう。

というか否定する気がなくなった。
.


90 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:37:30



どこまで逃げたんだろう。

いや、正確にはどこを逃げ回ってきたかだ。

僕は今、今朝出た自分の家の前にいるんだから。

気づいたときには西の空が赤いどころか、すっかり闇の中だなんて、

そんな超常現象みたいなこともあるんだな……

よくこんなに動いたよ……今日は

一世一代の大運動だ。

不思議と僕の息は切れていない。

家に入ろうか。

「ただいま」とでも言おうか。

僕は数秒考えて、家を離れた。

もうあんな辛気臭い空間に居てもどうにもならないからだ。



今日、僕は死ぬんだな……

ああ、正直死にたくないよ。
.


91 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:38:02

なおるよ……助けてくれ……

けど僕はやっぱり死ぬんだ……

ああ……もう一回あの景色が見たい……。

最初に決めたじゃんね、あの景色が最後だってね。

そんなことさえどうでもいいとまで言ったじゃんね。

あのフォークのモナモナ男からは逃げられそうにない。

僕は、そんなまったくバカバカしい恐怖と希望の幻影を、虚空に映してまた走る。



冷たいコンクリートを着たビル。

今日もやはり僕の目の前に高飛車に大上段に聳え立っている。

僕はできるだけ速く、階段を駆け上る。

そして屋上に着いた。

ここからの眺めは本当に……いい。

その理由?
.


92 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:38:29

決して綺麗じゃない。

綺麗なら、多分愚かしい綺麗さだ。

汚くもない。

汚いなら、やはり愚かしい汚さなんだろう。

理由はやっぱり分かりそうもない。

ただ、街が光っている。それだけだ

その向こうに、海が広がっている。それだけだ

そして、上には真っ暗な空が広がっている。それだけだ



後ろに風が吹いた。

僕は後ろを振り返った。

答えは分かっていた。



( ´∀`)「…………やっと追い詰めたモナ……」

まだ逃げられるのだろうか?

いや、無理だろ。という答えが。

( ´∀`)「…………じゃあ、さっさと死んでもらうモナか……」
.


93 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:39:08



(-_-)「…………世界を滅ぼさせるわけにはいかないんだ……だから12時になるまで死ねないね……」

睨んで言い放つ。

世界を救う。そんな大義に駆られたわけじゃない。

ただ、なおるよが困るから。それだけだ。

……半ば逃げるのを諦めているから、説得力は無いけど。

( ´∀`)「…………何言ってるモナ……」

「何を言ってる」? そんなに理解できないことだろうか?

(-_-)「…………そっちこそ何言ってる……あんたは世界を滅ぼしたいんだろう……」

すると、奴は宙を見つめ、独り言を始めた。

( ´∀`)「…………そうか……なるほど…………なおるよは……なあ……」

(-_-)「……どうしたんです?」

僕はぶつぶつ言っている奴に、嫌みったらしく質問した。



風が吹いてきた。死神の後ろめがけて。

('(゚∀゚;∩「ヒッキー!」

黒い背景に、青黒いマントが滲んだ。
.


94 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/06(月) 16:41:11

(#´∀`)「あ……なおるよ……君はホントに……」

そう言ったきり、僕は機嫌の悪そうな彼の顔をみることもなくなった。

( ´∀`)「ちょうどいいモナ……ヒッキー……君に真実を教えなきゃいけないモナ……」

('(゚∀゚#∩「な──

( ´∀`)「なおるよ……嘘を吐き続けるのも……やっぱり心が痛むんじゃないモナ?」

('(゚∀゚#∩「…………」

なおるよは固まった。

図星だったのだ。

僕はその瞬間に、

その嘘というものがどんなものなのか、想像がついてしまった。

('( - ∩「…………分かったよ……」

今までに見たことのないぐらい悲しそうな表情だった。



( ´∀`)「……いいモナか……世界が滅びるのは君が今日の最後まで生き延びれなかったときじゃない──



────君が、明日の最初まで生き延びてしまったときだ。



「予想通りだ」と、強がっておこうか。

でも、僕の膝は折れてしまった。


.


95 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:06:46



【 五 】



(-_-)「……なおるよ……それ本当かい?」

僕は答えられなかった。

声が出なかったからだ。

( ´∀`)「…………」

モナーは僕を見た。

僕はモナーを見た。

「君が答えろ。そうでなければいけないんだ」

そう言っているような目を、僕に向けていた。

('( - ∩「…………分かったよ……モナー……」

僕の口はそう言った。

でも、まだ言葉が用意できていなかった。
.


96 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:07:22

取り調べを受けている容疑者の心境ってこんなもんだろうか。

目の前がぼやけている。

('( - ∩「…………僕たちは本来人間に干渉してはいけないんだ……」

何言ってんだ。

ヒッキーはそんなこと聞いていないぞ。

('( - ∩「……ヒッキー……君は優しい奴だ……」

挙句の果てにお世辞か……

耐えられないから、僕は二人の方から顔を逸らした。

('(-  ∩「…………なのに……世界は君を滅ぼそうとしていた……

       その通りだよ……モナーの言うとおりだ……

       君が今日までに死ななければ、世界は滅びる……これが真実だ……」

これで僕はヒッキーの顔をまともに見ることはできなくなった。

だが、必要だった。

嘘を教えた自分の責任だ。
.


97 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:08:19

「……そうか…………そうだったんだね……」

ヒッキーの声が聞こえてきた。

甚く冷静な色の声。

( ´―`)「…………なおるよ……後は僕から説明していいモナ?」

モナーの優しい提案に、僕は肯きを送って甘えることにした。

頭がこんがらがって、説明はできそうもない。自分で蒔いた種なのに。

( ´―`)「……ヒッキー……君が今までいろいろと酷い目に遭ってきたのは、

      この世界がそう決めたことだからだモナ……

      本来、君は三日前の夜には死んでいるはずだったモナ……

      だけど、それは変わってしまった。なおるよが止めたから……

      本来起こり得るはずのない事象……そういうのを防ぐために僕らは人間に干渉することを禁じられている……

      僕らはいないはずの人間……の成れの果てだからね……

      そして僕らはこの世界を管理する者だ……世界を安定して運営していく義務がある……

      君が死ななければ、世界は安定を失うことになり、それはすなわち世界の崩壊を意味していた。

      だから僕には君をこの世から遅くとも今日が終わるまでには消す必要があるんだモナ……

「さて、」と言って、モナーは僕のほうに向き直った。

( ´∀`)「……なおるよ……なぜ、彼を助けたのか……世界が滅びると分かっていたのにも関わらず……

      まだ時間はあるし、ゆっくりでいいから話してほしいモナ……全ての話はそれからにするモナ……」
.


98 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:09:04



モナーは、自分の「世界を救う」という仕事を僕らのために後に回してくれると言っている。

('( - ∩「……ありがとう…………本当にありがとう……」

僕には、ようやくヒッキーのほうに体を向けて話をする勇気が出てきた。

でも、やはり顔は直視できそうにない。

('( - ∩「…………まず最初に……これだけは言わせてほしい

       ……騙しててごめん…………謝って許してもらえるとは思っていないよ……」

僕の目は、地面の冷たいコンクリートを見ていた。

('( - ∩「……僕らは、昔から君の事を知っていた……そりゃあ当り前だよね……世界の管轄者なんだから……

      ……誰がどんなにいじめられていようとも……どこで戦争が起ころうとも

      ……それは世界が必要としていることなんだ……

      だから僕たちはそれを止めることはできない……むしろ、それを進めさせる側の者だ……

      たまにイレギュラーが発生するからね……それはなんとか排除していかなきゃならない……

      ……世の中にはさ、法律ってものがあったり、自然災害とかがあったりする……

      だからさ……ある程度は納得のいくような場合がほとんどなんだ……」
.


99 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:09:42

なんだか笑えてきた。自分が信じられない。

('( ∀ ∩「……でもさ……君は……天罰なんて言葉が当てはまらない人間だ……

      いや、……ある程度は当てはまるだろう……だけど……絶対的におかしいんだ……君の場合は……

      ああ……決して幼い頃にポイ捨てしたことが原因なんかじゃないさ

      ……それぐらいのことでこんな目に遭うはずないじゃないか……

      ……何故君がこの世界に生まれてきたのか……疑問なぐらいだよ……

      ……世界は君を殺すためだけに誕生させた……そう言いきれる……」



目の前が、滲んだ。

僕は、泣いているのか。

「……許せなかったんだよ……この世界が……

 君だけにはピンポイントで不幸を与えてくるこの世界が……。

 ……ヒッキー……君は希望だけで生きてきたんだよね……社会に出ればなんとかなるって……

 人生の大半を占めている大人の期間があるから……そこでなら幸せになれるって……

 僕もそう思っていたし……そう願っていたよ……

 けど、僕らには近い将来の世界の状態を知る権利があってね……そして君に関する情報を見たらさ、これがなんと

 ……自殺で死ぬことになっていたんだよ……三日前にね……」
.


100 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:10:21

「…………でもさ、僕には伊藤がいたじゃないか……」

ヒッキーは平気そうな声を出していた。

僕は本当に平気であってくれることを願った。みっともない。

「……ああ……確かに……でもそれは君を失恋させて殺すためだったんだろう……

 とにかく君を惨めにしようとしてのことだと思うよ……

 そんなことで死ぬような君じゃないのにね……

 無駄な動きが目立ってきたこの世界も、やっぱり壊れてきてるっていうことだよ……すでに……」



足元のコンクリートが黒変した。

「……すでに……壊れてるよ!……君をわざわざ誕生させて……理不尽な目にずっと遭わせ続けて……

 そうでもしないと崩壊するような世界なんて!……今までは300年やってきてもこんなことなかったのに……

 ……こんな世界は……君が死んでも死ななくてもどのみち壊れるんだよ……

 だから僕は……君を唆して、生きてもらおうと思ったんだ……せめて最後まで……

 今まで助けてやれなかった罪滅ぼしじゃないけど……せめて人間としての願いぐらいは、と思って……!」



寒かった。どうしようもないぐらい。

コンクリートには染みが増える一方だった。
.


101 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:12:53

「……いや……見苦しい言い訳だね……僕は世界を滅ぼすために……君を唆してただけだ……

 最後まで、君のためだとか……ふざけるのも大概にしたほうがいいね……」



( ´∀`)「……なおるよ……それこそ見苦しい言い訳だモナ……」

('( - ∩「?……」

( ´∀`)「……君は……単純にヒッキーを助けたいと思っただけだモナ……

      そりゃ世界に対して怒りを感じたかもしれないけど……

      ヒッキーを助けるという行動は、怒りから起こしたものじゃないモナ……」



静寂が、またやってきて、破られた。

ずっと黙っていたヒッキーが喋りだした。

「……なおるよ……僕は楽しかったよ……この三日間……」



しばらく僕は黙ることにした。

ただ、嬉しくて。

何も言えそうにないし、

もう言うこともない。
.


102 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:13:22

僕にはヒッキーの顔を見る勇気がやっと出てきた。

(-_-)「……今になって考えてみると……助けられて本当に良かったよ……

     遊園地にも遊びに行けたし……楽しいバーにも行けたし……

     ……なにより伊藤の顔も見れたしね……」

いつもと変わらない無表情

じゃなかった。

無表情にも見えたけど、あれは彼の自然な笑顔なんだろう。

( ´∀`)「……なおるよ、君のしてきたことは間違いじゃないモナ……

      ……確実に一人の人間を救っているんだモナ……」

(-_-)「“Quite so.”(その通りです)……で合ってるよね?……ほら……バーで言っていた……」

('(゚∀;∩「……ああ、あれかい?……うん……正解だ……」



僕らは笑っていた。

下品じゃなく、自然で、この世で最も望ましい形の笑み。

涼しい風が、祝福してくれているようだった。



(-_-)「……モナーさん?」

( ´∀`)「……ん?」
.


103 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:13:52

(-_-)「世界が滅びたら、あなたたちはどうなるんですか?」



え?



ヒッキーなんでそんなこと聞くの?



( ´∀`)「……ああ、……そうモナね……」



モナー?

モナーたのむから言わない──



      ──世界もろとも消えるモナ」

(-_-)「そうですか……では」




.


104 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:14:36



ヒッキーの体が

宙に漂っていた。



「僕はこの三日間楽しかったよ

 君のおかげだ

 最後の三日間だけでもこんなに楽しいことの連続になったとは正直驚いているんだよ

 この世の中も捨てたもんじゃないのかもね

 最初は助けてもらってさ、迷惑だと言ったけど

 本当はとても嬉しかったのかもしれないよ

 でもさもういいんだ

 これ以上に楽しいことなんて無いよきっと

 それにそうだ最初に君は言ったじゃないか

 この世界を救ってほしいってさ

 その代わりに君は僕を楽しませてくれたじゃないか三日間めいっぱい

 だから僕は救うよ

 君の世界を」


.


105 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:15:23



鉄色のマントが

風に乗って

月の光に映えて

















やさしい



やさしすぎる衝撃音が

この世界のすべての生物の心の奥底に

響いた







.


106 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:15:58








空は嫌みなぐらいに普通だ。

雲も我が物顔で空に漂っていて、

世界は相変わらずだ。



僕らはヒッキーの家に来ていた。

跡片付けするためだ。

いやはや全く、ヒッキーぐらいの人間になると

死んだことさえ気づかれていない。

賃貸だっていうのに。管理人の頭の中にここは入っていなかったんだろう。

普通ならヒッキーはずっと前に追い出されていたはずだ。

ヒッキーは大人になってから、どこまでも空気になってしまったということなのだろうか?

そのわりに、ヒッキーに対するこの世界の態度は敵意さえ見えるときもあった。

やっぱりこの世界には釈然としないことが多い。

本末転倒、ヒッキーを殺すために、余計に不自然になっていたのかもしれない。

('(゚∀゚∩「……じゃ、入ろうか……」

( ´∀`)「……ああ」
.


107 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:17:12



扉を開ける。

中は少し汚いぐらいの空間だった。むしろ綺麗な場所に見えたぐらいだった。

少し埃っぽい。僕は換気のために窓を開けた。

滑りの悪さに、少し業を煮やした。

('(゚∀゚∩「モナー……荷物どうする?」

( ´∀`)「……消しちゃえば……引き取るわけにもいかないし」

('(゚∀゚∩「消す?……そんなことできたっけ?」

モナーは「えい」と無気力に言って、そこにあった埃一粒を消した。

('(゚∀゚;∩「……い……いつの間にそんな力を……」

「さあね、興味ないモナ」と、モナーは軽く流した。

なんというか、モナーはつかみどころが少ない。

だから、僕は少し苦手なのだ。それはこれから何年経っても変わりそうにない。



突然何かが現れた。僕らの足元。漆黒のコートを着ている。

Gだ。

そして僕らに向かって飛んできた。

('(゚∀゚;∩「わわっ! なんだよ……」

周章狼狽な僕をよそ目に、モナーはまったく動じていなかった。というよりも、不思議がっていた。

( ´∀`)「……?……Gって上には飛べないはずじゃ?」

('(゚∀゚;#∩「飛べるのだっているんじゃないの?」

僕はGの奇襲に少しだけキレていた。
.


108 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:17:36

モナーは少し唸って考えて、「そうかもしれないモナ」とまた軽く受け流した。

真剣に受け止められるべき話題でもないが、答えが平凡なら損した気分になるのは必然だ。

( ´∀`)「なおるよ」

( ´∀`)「もうやめにするモナ……その黒い彼は……

      ヒッキーの部屋を荒らされたくないと思っているのかもしれないモナ」

('(゚∀゚;∩「……え? ちょっと……家具はどうするの……」

( ´∀`)「どうにでもなるモナ……大家に引き取ってもらうとかなんでもどうにでも……それより……見るモナ」

モナーの指先は、さっき換気のために開けた窓。

の向こう側に見える黒い飛翔物に向いていた。

いつの間に出ていったんだろうか。

( ´∀`)「あのゴキブリを追いかけるほうが面白いんじゃないモナか?」

('(゚∀゚;∩「はあ?……」

( ´∀`)「……ま……僕はそんなに興味ないけどね……どうする? 僕は君についていくことにするモナ」

何で僕に……

('(゚∀゚#∩「じゃあ、追いかけるコースで」

(#´∀`)「了解」

僕らは妙にハイテンションになっていた。
.


109 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:17:59

少し頭を冷やすべきなのかもしれない

そうは思いながら、頭の中のTCA回路はスピードを増していくだけだった。



僕らの足はなかなか速いほうで、僕らの目はなかなか良い。

何年この世に留まっていても変わらず、元気なままだ。

だから僕らはのんびりと空に浮かぶ黒い点を追いかけることにした。

( ´∀`)「不即不離。追跡には不即不離が一番。あんまり早く追いかけてモナんだし」

('(゚∀゚;∩「もう随分離されてると思うよ。ところで、それはひょっとしてギャグで(ry」



なんでこんなときに陽気なんだろう。

昨日、ヒッキーが死んだばかりだというのに。

そう考えると、少しは涼しくなった。

回路のスピードも緩くなったように思う。

('(゚∀゚∩「……モナー」

( ´∀`)「……ん?」

('(゚∀゚∩「……昨日は……いろいろと迷惑をかけたね」

モナーは「気にするなモナ」とだけ言った。

モナーの歩みが少し速まったのは気のせいだろうか。
.


110 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:18:27



########################################

('(゚-゚∩「…………」

( ´―`)「…………」

ヒッキーが落ちた。

僕の目が節穴じゃなければ、それは真。

そして僕の目は節穴じゃないときた。



月は顔色一つ変えない。

憎らしいなあ。



('(゚-゚∩「……もう僕、三百二十何歳になるはずだよ……ねえ……

      なのにさ……なのにこれぐらいのことで──



慟哭。



何も考えたくなくなった。
.


111 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:18:51

それから先は少し覚えていない。

はっきり自分が冷たいコンクリートの上に寝そべっていると認識できるようになったときには、

側にモナーが座っているだけだった。

僕は泣き疲れて、眠ってしまった。

ヒッキーの遺体はすぐに警察が来て運んですぐに焼却された。

モナーはそう教えてくれたが、多分前者は嘘だろう。

モナーに罵詈雑言吐いてしまったかもしれない。

「気にするなモナ」

問いただしても、返ってくるのはそれだけ。

そして僕はまた、それに甘えてしまった。

いつまでたっても情けない奴だ。



後者もいろいろと不自然なところはあるけど、どうやらそれは本当なのだろう。

ヒッキーのこととなれば、超常現象さえも起こすのだろうから。この世界は。

だがそれも全部失策だろう。
.


112 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:19:23

( ´∀`)「……なおるよ……勘違いしちゃだめモナよ……

      ヒッキーが死んだのは決してこの世界のためなんかじゃないモナ……

      『君の世界』……それと『伊藤さんの世界』……この二つのためのはずモナ……

      いや、君のために死ぬわけないモナ。『伊藤さんのため』だけモナね……」

僕が気に負わないように、か。……いや、モナーのことだ。本気で言っているのかもしれない。

( ´∀`)「世界に殺されたわけでもないモナ……彼が自分で選んだ最善の道だったはずモナ……

      だから……彼を責めてはいけないモナ……『なんで死んだんだ』なんて思っちゃだめモナ……」

とにかく、モナーは僕が起きたときにこう言った。だから多分、世界の策は失敗に終わってる。

だから世界の負け。ヒッキーの勝ち。

ま、勝ち負けの問題じゃないけどさ、なあこの世界よ。

そういう風にでも考えないとさ、ヒッキーのことを責めてしまいそうなんだよ。

つまり、これじゃあ完全に僕の負けだね。うん、ヒッキーさえお前に勝てばそれでいいんだよ。

########################################


.


113 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:19:53

僕らはしばらく歩いていた。順調にGの尾行も成功していた。

気がついてみればもう西の空は綺麗に赤く染まっていた。

( ´∀`)「……あ」

('(゚∀゚∩「どうしたの?」

(;´∀`)「……ちょ……ちょっとね……調べるべきことがあったんだった……僕はもう帰るモナ!」

('(゚∀゚;∩「なっ……いきなり何言って──

僕が言い終わる前にモナーは消失していた。

まだ夜じゃないんだぞ。

誰にも見られていないよな……いきなり人が消えたら大騒ぎになるだろ、常考……

それにしても……今の挙動、何か企んでいるのだろうか?

でも、僕も何か大事なことを忘れている気がする。

そしてそれは忘れててもいいことなんだろうか。



周りを見る。

Gも見失った。

どこに行った?

よく見たら、

僕は一人だ。
.


114 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:20:21



僕も、もう帰ろうかな。

夕焼けは異様に熱い。涼しく暗い世界にいつもいる僕を責めるように。

自分のマントを見た。青褐のマントも、薄汚い黒になっていた。

この時間帯は、他のどの時間帯よりも、寂しい。

少なくとも僕はそう思う。

それに優しくない。特に目には優しくない。

紫外線をバンバンぶち込んで白内障になりやすくしたり、哀愁をバンバンぶち込んで涙を流させたり。

だから、僕はもう帰ろうかな。



僕はなるべく暗いところにそそくさと移動した。

誰にも見られていないことを確認して、あの世界へ逃げ帰った。

変なことを考えて、哀愁をバンバンぶち込まれる前に。


.


115 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:20:57

┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼

出現する場所を間違えたのだろうか?

明るい。僕の見慣れた空間とは言えそうもない。

月の光のようなものが降り注いでいる。

( ´∀`)「……あ、なおるよ、お帰りモナ」

モナーが居るあたり、出現する空間を間違えたわけじゃなさそうだ。

('(゚∀゚∩「……今日はいつになく明るいね……」

( ´∀`)「今日はそういう仕様にしているモナ」

('(゚∀゚∩「……変わったことするね」

モナーはこんなことの為に早めに帰ったのか?

まあ、あり得るけど。



('(゚∀゚∩「……ちょっと世界の様子見てくるね」

( ´∀`)「? さっきまでいたじゃないかモナ」

('(゚∀゚∩「いや、そうじゃなくて、……全体的にさ……」

なんとなく、この空間に斥力を感じた。
.


116 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:21:32



自動的に、僕は眼下に広がる世界を見渡していた。

夕日はまだ沈んでいない。



ヒッキーごめん。

僕はやっぱり君が死ぬことはなかったんじゃないかなって思うんだ。

「なんで死んだのさ」っていう感情とも違うかな……

「なんで死ななきゃならなかったのさ」ってことだよ。

君にとっては不可抗力だから、君を責めるのは御門違いさ。

だから責めこそはしないよ。

でも分からない。

ねえ、君は今までこの世界に吸い尽くされてきたんだろ?

『君の世界』は護られなかったんだろ?

君が死んでさ、『みんなの世界』は救われたけど、

なんで『君の世界』は救われなかったの?
.


117 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:22:06

僕は泣き出しそうになった。

だけど、それは中止だ。



だって

背後に、強く、風が吹きつけたから。



僕は数秒考えた。

振り返ると、

そうだな、もう泣いてもいいのかな。



「やっほー」



鉄色のマントを着ている男が立っていた。

足元に『闇黒の貴公子』を携えて。

「君の挨拶だろ?」という顔。

いや、「何泣いてんの?」という顔でもあった。



じゃあさ、ヒッキー

君は『君の世界』も救うことができたんだね。
.


118 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:22:45

……そういえば、モナーのときから600年、僕のときから300年経ってる。

なるほどそういうことか、僕が何か忘れていたことって、これだったのか。

え? じゃあモナーの挙動が不審だったのも途中でこのことに気づいて?

……この世界もたまには粋なことをしてくれるんだねえ

……このことまで世界は想定していたんだったら……僕は見事に釣られ──



いや、今はどうでもいい。

ただ再会を喜ぼう。

だから僕は取り敢えず、こう言っておいた。



「やっほー」








        (-_-)は世界を救うようです     終わり


.


119 : ◆y1TBgQ3JzI:2007/08/07(火) 16:24:12



はい。

これで本作品はおしまいになります。
読んでくださった皆さんに感謝いたします。

ありがとうございました。
.


[ 2000/03/06 21:02 ] 中篇まとめ | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://boonroop.blog5.fc2.com/tb.php/32-2b8c301d








上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。