ブーンミコ酢 ブーン系過去作まとめ

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(´・ω・`)は頼み事をするようです

1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:15:38.87 ID:mqs8VyyU0
 全てのものには神が宿る。
 そんな宗教が、かつての日本には存在した。
 現代、その信仰は廃れているが、その神達は残っていると考えてみると面白い。
 様々なものに神が宿り、そして、人たちを見守っているのだ。
 大切にした物はもしかしたら……

 貴方は、物を大切にしていますか?


2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:16:17.96 ID:mqs8VyyU0
 昼は喫茶店、夜はバーという形式の店はなんと呼ぶのだろう?
 レストランバーとも違う、バーボンハウスと名づけられた店を僕は営んでいた。
 別に流行ってる店ではなかった。
 常連客が定数居て、彼らのお陰で何とか経営が破綻する事はない、そんな店だ。

 自分でも、なぜこの店が成り立っているのか、正直理解していない。
 僕は横暴だとよく言われ、それは自分でも認識している。
 だのに、僕の人柄を気に入ったと言ってくれる、そんなありがたいが愚かな常連客が後を絶たなかった。
 まあ、客がなんと言おうと僕は僕の流儀で仕事をするし、それに文句を付ける客は客じゃない、敵だ。
 その考えからも、僕が接客業に向いた人間ではない事が伺えるのだけれど、常連客達はその姿勢が良いのだと言ってくれる。
 バカな連中だ。きっと頭のネジが数え切れないほど欠落しているのだろう。

 元は親父から引き継いだ店で、当初はやる気のなかった僕だが今ではこの仕事以外に僕の仕事はないだろうとまで言える。
 この店はそんなダメ人間マスターと、頭のおかしい常連が閉じこもってる店だよ。

4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:18:42.53 ID:mqs8VyyU0
 秋の温かい小春日和でも、春眠暁を覚えずの故事は成立するようで、今日は陽気に当てられて普段以上に眠かった。
 その睡魔に身を任せた故に随分と遅くなった支度を終えて、僕の趣味で選んだピアノ曲に耳を傾けながらグラスを磨く。
 部屋の隅に置かれた蓄音機式のジュークボックスは動くのだが、今日は設置したスピーカーを使っていた。
 今はハンガリー狂詩曲の第3番・変ロ長調が流れていて、リストが好きな僕はよりいっそうこのグラスに時間を掛けた。
 とりあえず、このグラスは曲が終わるまで磨いていよう。

 仕入れも終わって開店の準備は出来ていたが、気分じゃないから開けていなかった。
 時間は……窓の外が赤く染まっているから、午後四時? とりあえずその位だ。
 壁掛け時計は僕の背後にあるから振り返るのが億劫で、放置気味の柱時計は最後に何時ネジを巻いたのか定かではない。
 なに、どうせ気にする性質ではないので、時間なぞどうでもよい。
 窓から差す夕日がカウンターやテーブルやらに照り返って、グラスと整えた髪を染める。
 背後にある酒瓶は、さぞ綺麗に輝いていることだろう。
 なんだか、このままノンビリしていたいな……気分が乗らないし、今日はこのまま休日にしようか。

5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:20:09.23 ID:mqs8VyyU0
 そんなこと考えていた矢先だ、ドアに連動したベルが音を立てた。
 尋ねたヴァカは、目が腐ってるのか、それともタミフル的な異常行動からか?
 とりあえず、CLAUSEと書かれた札が読めないそいつは、その扉を開けて中へと進入する。
 ああ、頭おかしいみたいだね、不法侵入野郎。

(´・ω・`)「おいてめぇ、まだ店は開いてねぇんだよ。ぶちころすぞ」

 とりあえず、犯罪者にお似合いの挨拶を済ましてそちらに目を向ける。
 その先には高校生らしき一組の男女が、何か言い合いをしながら扉を開いていた。

 少女の方はカールを掛けた明るい色の髪を側頭部で結っており、少々きつそうな印象を受ける容貌をしている、僕の娘だ
 少年の方は常に浮かべる柔らかい表情のためか人懐っこい印象を受ける好青年で、ウチの常連客だった。
 どちらも近所の高校のブレザーと学ランに身を包み、人の話を聞かずに討論を続け、ふと気がついたようにこちらを見つめた。

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま、父さん」

(´・ω・`)「まだ開ける気分じゃないんだ。ほら、帰れ」

(;^ω^)「ひでぇwww」

ξ゚⊿゚)ξ「うるさいダメ親父。そんなことだろうとオープンにして置いたわ」

 なんて事してくれやがる、そういうところは母さんに似たんだな。
 娘に言われては仕方なく、グラス磨きを中断して開店の準備を始めた。

6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:24:19.02 ID:mqs8VyyU0
 彼らは手伝う気はないようで、カウンター席に着き下らない言い争いを憮然と続ける。
 薄情な子供達だな、僕は我が子をそんな風に育てた覚えはないぞ。
 準備は大半が済んでいたのですぐに終え、僕はカウンターに着きながら彼女達の舌戦に耳を傾けた。
 もし、下らない内容だったら手伝わせてやる。

ξ゚⊿゚)ξ「だから、猫の方が可愛いって、子猫なんかもう悪魔的に可愛いじゃない」

( ^ω^)「アレは腹黒そうで生理的に好かないお。大型犬の可愛さは異常」

 やはりと言うかと言うか、彼らの論争は愚にも付かない内容で、当然頭にキた僕は彼らの間に割って入り宣言した。

(´・ω・`)「猫に決まってるだろう。常識的に考えて……」

(;^ω^)「ですよn……えぇえぇ~!?」

 不満そうな声を上げないでくれ。残念ながら、僕の中での最強の座は不動だ。
 娘も僕の崇高な嗜好を理解してくれるとは、僕の教育の賜物だね。
 無駄な感慨に浸りつつ、水掛け論に花咲かせる彼らを尻目にコーヒーミルを回す。
 今日のコーヒーは格別だろう、気分が良いから良い豆を使おうか。

10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:27:40.24 ID:mqs8VyyU0
 議論に熱心な娘達にカプチーノを出して、レバーピストン式のエスプレッソマシンにミルクを足す。
 昔、彼女が納得のいくコーヒーが作りたくて試行錯誤し、今では固定客が出来るほどの腕前になった。
 今この店の経営が成り立っているのも、これが理由だろう。

 ふと手持ち無沙汰になって布巾を持って掃除を始める。
 光沢を放つピアノや柱時計の気に入らない埃を払い、念入りにメトロノームを磨く。
 途中で客が入ってきたが、僕は掃除中だったので終わるまで待ってもらった。

('A`)「エスプレッソ一つ、てか客待たせていいのか?」

 勝手な常識押し付けやがって、お客様は神様なんてルール僕は認めないね。
 お客様根性なんて、糞喰らえだ。
 客が偉いなんて誰が決めたんだ? ココは僕の店だ。僕がルールを決めて何が悪い。

(´・ω・`)「文句あるかい? コレが僕の店だ」

('A`)「言うと思ったぜ」

 伝票に走り書きながら応答して、僕はカウンターに戻った。

11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:29:21.86 ID:mqs8VyyU0
 日は傾いて、ついにビルの谷間に潰えて消えた。
 今や茜色の残滓が、かすかに西の方向を染めるばかりだ。
 タバコを吸おうとする客を店の外へ追い出し、ついでに僕も倣ってその客と談笑しながらタバコを吸う。
 店の備品にヤニが付かないよう、この店は全面禁煙だった。
 会話の合間に吐き出した紫煙は、天を目指す途中で風に飲まれて散り散りになる。
 僕はそれを眺めながら、もう一服する為にタバコを口に咥えた。

('A`)「なあ、マスター。一ついいか?」

(´・ω・`)「なんだい?」

 秋の冷たい風が着火を妨害して、少し震えながら風除けの為に手で覆う。
 常連客は煙を吐き出して、僕の点火を待ってから尋ねた。
 無意識に向けられた視線は、毒々しい花を咲かせる曼珠沙華へと向けられた。
 見つめた紅色の毒花は、手を高くのばすように雲を掴もうと足掻いていた。

('A`)「何でマスターも喫煙者なのに、禁煙なんてルールがあるんだ?」

(´・ω・`)「うーん……親父の遺品が汚れるだろう? ピアノや柱時計は親父のモノなんだ」

 そんな嘘をついてから、僕は空へと呼出煙を吐き出し誤魔化した。
 僕らはそのまま無言で紫煙を燻らし、たまに思い切り吸っては空へと煙を飛ばす。
 だけどそれは、群青に染まり始めた雲まで届く事はなかった。

13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:33:47.90 ID:mqs8VyyU0
 僕は結局3本吸って店内に戻ると、娘達にカプチーノのお替りを出した。
 娘達は議題を変えてまた水掛け論を展開しており、片手で数えられるほどの客がそれぞれの時を過ごしている。

 やる事のない僕はグラスを磨いて、そろそろ尋ねてくるであろう文字通り酒客達に備える事にした。
 どうやら僕は、グラスを磨きながら音楽に耳を傾けるのが好きなようで、今流れる旋律へと目を閉じ集中する。
 ちょうどラ・カンパネルラの鐘の様な響きが聞こえて、僕はしばらく磨く手をせわしなく動かした。

ξ゚⊿゚)ξ「私はエスプレッソよりカプチーノの方が好きなの」

( ^ω^)「……僕はツンが好きならなんでもいいお」

ξ♯////)ξ「あっアンタは、自主性を持ちなさいよっ! 自主性をッ!」

(;^ω^)「でも、趣味が合わないとツンは怒るお」

ξ♯////)ξ「ぅ、うるさいわねっ! 馬鹿!!」

 聴覚に神経を集めれば、自然と他人の会話の聞こえてくる。
 カウンター席に着いているのは娘達だけだったので、その初々しい声が聞こえてくるのは必然だった。
 何故ペットからこんな話題になったかは知らないが、いつものことだ。
 それにしても、彼女は本当に素直じゃないな。
 恐らくブーン君と常に論駁を繰り返す原因は、そこにあるのだろう。

 この調子なら、彼は知らないだろう。
 だけれど、もう彼は知っていいのではないだろうか?

14 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:36:19.56 ID:mqs8VyyU0
 娘は嫌がるだろうな。
 もしかしたら、口を聞いてもらえなくなるかも知れない。
 でも、僕は伝えなければならない気がした。

 娘はきっと自分からはなかなか言わないだろう、彼女の強情さは自分のプライベートに入る事を善しとしないだろう。
 だが、それを理由にされて傷つくのは娘だ。
 僕が虐げられるだけなら、僕は甘んじて受けよう。
 それに彼なら平然と受け入れてくれるだろうという、無根拠な自信があった。

 ふと心に浮かんだ疑念は、瞬く間に決意となって僕に宿る。
 気が付くとスピーカーの奏でる曲は、次のトラックへと移っていた。
 グラス磨きを中断して丁寧に棚へと並べ、また異なる議論へと移行した娘へと声を掛ける。
 窓から見える空は、ビルの合間に見えていたオレンジすらも群青に押し出されて、星の瞬きが薄っすらと見えていた。

(´・ω・`)「さて、ツン。ちょっといいかい? ブーン君、キミもだ」

ξ゚⊿゚)ξ「なによ? また手伝えって?」

(´・ω・`)「その通りだ、よくわかったね。ちょっと買い出しに行ってくるから、店番を頼んでいいかい?」

ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……ったく、ブーンレジお願い」

 ため息など吐きつつも、彼と店番が出来る事が嬉しいのだろう。
 カウンター席からその重たい腰を浮かす。
 なんだかんだで、僕の言う事を聞いてくれる娘に微笑みを隠せず、けれど準備を始める彼女に水を差す。

(´・ω・`)「すまない、今日の荷物が多いから、ブーン君を借りるよ」

16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:39:27.32 ID:mqs8VyyU0
 駄々をこねるツンをなだめすかし、協力的なブーンを連れだす。
 まだ日中は残暑が残っていたというのに、身震いするほど外は寒かった。
 ストーブの導入を黙考しつつ、大人しく僕の後をつける彼へとそれを相談する。
 しばらく歓談していると、すぐに目指した店は見えた。

 目指した先は、バーから程近い小さな花屋だった。
 僕は紫色の小ぶりなカンパニュラを選ぶと、店員に頼んで丁寧に梱包してもらった。
 彼にそれを持つように頼むと、タバコを吸って良いか断りを入れた。
 ポケットからタバコとライター、それから携帯灰皿を出して左手に持つ。
 せっかく買った花が燃えては元も子もないから、というのが、彼を連れてきた建前だ。
 紙巻きタバコのフィルターを千切りながら、僕はふり返り彼に尋ねた。

(´・ω・`)「ちょっと、寄り道しないかい?」

( ^ω^)「ツンに怒られるお?」

(´・ω・`)「僕の所為にして構わないよ。それに、缶コーヒーくらいは奢るさ」

( ^ω^)「お供させていただきますおっ!」

 昔は彼も敬語を使ったのだが、その響きが妙にくすぐったくて僕はそれを禁じた。
 だというのに、稀に敬語を使う彼がおかしくて、僕はニコリと微笑んで路地へと踏み入れた。
 着火したニコチンの化身に風が吹き付けて、燃える断面が淡く輝く。
 吐き出した煙は、すぐに流れて消えた。
 どこからか種が運ばれたのだろうか?
 コンクリートの割れ目にセンニチコウが僅かな夕日の名残に照らされて、最後の余力を尽くし誇らしげに咲いていた。

17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:44:03.97 ID:mqs8VyyU0
 たどり着いたのは、桜と楓が囲む小さな公園だった。
 平日は営業回りに疲れたサラリーマンの憩いの場所で、昼食を楽しむ姿がよく見られるだろう。
 敷地を囲むように植えられた木々が生み出す陰影は、日除けに適していると言える。
 落葉性の低木も植えてあり、サンザシがまだ青い実を着飾る姿も見えた。

 すっかり闇に覆われた街は当然この公園も例外に漏れず、2本の街灯だけが明かりの頼りになっていた。
 中央は周囲より少し高くなって、芸術的な価値があるとは思えない青銅の像が2体鎮座している。
 2つの像は少年と少女を模ったもので、むせび泣く少女を少年が眺めているというものだ。
 僕はこの少年が浮かべる、どこか達観した表情が嫌いだった。
 近くの自販機で温かい缶コーヒーを買って、僕らは像の正面のベンチに腰掛ける。
 彼は放り投げたコーヒーを受け取ると、軽く振って僕が話し出すのを待っているようだった。

(´・ω・`)「ちょっと、一服していいかな?」

( ^ω^)「もちろんですお」

 僕は重度のニコチン依存症らしいね。
 煙を心に残る僅かなモヤと共に吐いて、彼に話をする覚悟を決める。
 ニコチンは僕の心を晴らして、頭に渦巻く不安すらも飛ばしてくれるようだった。

(´・ω・`)「ツンはね。本当は僕の妹なんだ」

20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:46:08.74 ID:mqs8VyyU0
 僕の言葉を聞いても彼は何も言わず、無言で続きを促した。
 特に驚いた節もなく、ただ事実を咀嚼するようにいつもの笑みを浮かべている。
 僕は吐き出した煙を目で追っていたのだけれど、彼の一挙手一投足は何となく察しがついた。
 視野の端に眠りにつく蟷螂が鎌と複眼を街灯の明かりに照らされて、生々しい輝きを放つ。
 都会のど真ん中だと言うのに、かすかに聞こえる鳴き声は、きっと早いコオロギのそれだ。

(´・ω・`)「もちろん、血は繋がっていない。それは法律の問題で、未婚者は養子が貰えないからなんだよ」

( ^ω^)「……血が繋がってない事は、何となく気がついてましたお」

 そうか、やはり彼女と僕は似ていないか。
 ツンは元孤児で、僕は子供の産めない彼女と共にこの子を引き取った。
 結婚できない彼女とのせめてもの反抗だったのか、それとも純粋に彼女に同情したのか。
 いや、同情なんてものじゃない。もっと汚い、彼女をまるで記念品のように彼女を自分の物にした。
 とりあえず、僕はもう何年も会っていない母親を半ば脅迫する形で、ツンを家族に迎え入れたのだ。

(´・ω・`)「でもそんなのは、どうだってよくてね? 僕はツンを本当の娘だと思っているんだ」

(♯^ω^)「そんなのは、言われなくたってわかるおっ!」

 半ば怒鳴るように彼に言われて、僕はその姿をまじまじと見つめる。
 そして、確信を得た。
 汚い僕にすら優しい彼だからこそ、この話をするんだ。
 やっと顔を見せた月に照らされて、空を一筋の飛行機雲が伸びていた。

22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:47:57.85 ID:mqs8VyyU0
(´・ω・`)「大人は汚いのさ。そして僕は良くも悪くも大人になった」

 子供みたいな我侭は健在だけどね。と付け加えると、彼は笑って返した。
 彼女を愛しているのは贖罪でも、彼女との思い出の残滓でも約束を果たすためでもない。
 約束を果たすのは当然だが、それ以上に僕は娘を愛していた。
 偽善と言われたら反論できないだろうが、それでも、なにがあろうとツンは僕の娘なのだ。
 800度の熱を放ち酸化していく手元のタバコを眺めて、僕はもう一度口を開いた。

(´・ω・`)「ところで、陳腐な昔話は好きかい?」

( ^ω^)「おっ?」

(´・ω・`)「よくある、そしてオチのないお伽噺さ」

( ^ω^)「……聞かせて欲しいお」

 何かを感じたらしい彼が、一度改まって僕の顔を睨むように見つめる。
 僕はゆっくりと過去を振り返り、彼女の妻との思い出を振り返った。
 彼の前だからだろうか? それとも、古い記憶だからだろうか?
 思った以上に涙が込み上げる事はなかった。

24 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:49:43.10 ID:mqs8VyyU0
 ある所に、父親が死んで、半ば押し付けられるようにバーを任された男がいた。
 その男は営業する気などなく、僕以上に適当な営業をしていた。
 もちろん客は随分と少なかったのだけれど、男は一人身だったし、何より潰れても仕事のツテがあったから困る事はなかった。
 きっと、男にはあの喫茶店を潰したい気持ちがどこかにあったのだろう。
 当時、男は酷く子供で、まるで反抗期の中学生のように父親に対する敵愾心を持っていた。
 だけど、男は神経質で店の掃除を欠かすことはなく、常に店内は清潔に保たれていた。

 ある春の日、そうちょうど玄関に植えたオオデマリが、白い花を満開に咲かせている時だった。
 男がグラスを磨いていると、綺麗な女性が現れた。
 店を訪れたのではなく、前触れもなく女は泰然とそこに立っていた。
 女はまるで鉱物のように静かな眼を持っていて、冷徹な印象を与えたのだけれど、男にはどこか見慣れた懐かしさを感じさせた。
 男が名前を聞くと女は笑って誤魔化し、エスプレッソを注文した。
 エスプレッソは自信があった男は、手際よく作ってコーヒーカップを差し出す。

川 ゚ -゚)「……これは、泥水か?」

 父親の指南もあり、そこそこの定評を受けていた男は憤慨した。
 結局女はコーヒーを残し、また来ると告げると席をたった。
 女は出てきた時のように前触れもなく掻き消えたのだが、そんな事はどうでもよかった。
 そして、その日から男の戦いは始まった。

27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:51:30.39 ID:mqs8VyyU0
 毎日のように訪れる彼女へ男は、エスプレッソを出し続けた。
 黒檀のように変わらない彼女の表情に一喜一憂し、毎日のように試行錯誤を繰り返した。
 いつも唐突に現れ、飄々と僕の質問を避ける彼女への疑念は高まるばかりだったが、あまりの憤懣がそれを排斥していた。
 ある日、男は彼女に尋ねた。

(´・ω・`)「名前くらい教えてくれたって良いじゃないか?」

川 ゚ -゚)「キミが僕の満足するコーヒーを出したら、教えてあげよう」

 女はその質問に僅かな間を持って、切り返した。
 それは疑念と言うより愚痴に近い形だったが、初めて質疑応答の形式が叶った会話だった。
 男の挑戦は更に白熱した。

 しばらくして、男は随分と上達を自覚していた。
 バリスタ技術は誰にも負けないという自負さえ芽生えてきたある日、彼女はこんな注文をした。

川 ゚ -゚)「今日は、カプチーノ」 

(;´・ω・`)「……え?」

川 ゚ -゚)「だから、カプチーノ」

 男の戦いは、振り出しに戻った。

28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:55:10.06 ID:mqs8VyyU0
 カプチーノだけじゃない、ウィークコーヒー、ドッピオ、ラッテ 、コレット、マキアート。
 様々な注文をされて、その全てに挑戦した。
 そのたびに試行錯誤を繰り返し、ついに女の鉄面皮は柔らかい笑みの形をとった。
 たしか、赤いサルビアの花が咲いている頃だったから秋だと思う。
 男が喜びと共に、浮かんだのは一抹の不安だった。
 もう会えないのではないか、という不安が知らずの内に生まれて、猛獣のように暴れていた。
 陳腐でベタな話だが、男は女に惚れていたのだ。
 だから、せめても繋ぎ止める為に、男は女に名前を尋ねた。

川 ゚ -゚)「僕の名前はね」

 彼女の告げた名前は、奇妙なものだった。
 まるで人間のモノとは、いや、動物の名前ですらない。それは、物の名前だった。

川 ゚ -゚)「八百万という考えを知っているかい?」

 彼女は自らを物に宿った神だと説明した。
 それは、神と言うより精霊や妖精の類が妥当だろう。
 宿った物品が壊れなければ、その周囲を自在に動き回る事が出来る妖精のようなものだ。

29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:58:10.57 ID:mqs8VyyU0
 到底信じる事ではないが、何故か男は納得して、そしてその上で彼女に思いの丈を告げた。
 無機物に告白するなど、どう考えてもイカれた人間の所作だが、そんな形振りに構って居られるほど、男は出来た人間ではなかった。
 だけれど、彼女は沈痛な面持ちで頭を振った。

川 ゚ -゚)「私達は100年に1年しか、人の形を取る事が出来ないんだ」

(´・ω・`)「諦めの悪い僕が、その程度を障害だと思うかい?」

川 ゚ -゚)「僕はキミはもう二度と会えないんだぞ? 後数ヶ月しかないんだぞ?」

(´・ω・`)「数ヶ月しかないのなら、もっと楽しまないといけないね」

 強情な男は決して譲らず、その姿勢に女は観念した。
 元は彼女の言うところ、店が潰れ自分が廃棄されるのが怖くなって姿を見せたのだという。
 初めは恋愛感情などなかった女も、次第に男に惹かれ二人は楽しくバーでのひと時を過ごした。
 特別なものなどなかった。それが自然で、だけど温かい時間だった。
 それが男の自惚れでなければの話だけどね?

31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 19:59:26.69 ID:mqs8VyyU0
 宿ったの品物が何か技能的なものに関連するのかは知らないが、彼女はピアノが上手だった。
 特にリストの曲を好み、よく男に弾いて聴かせてくれた。
 男はそれを聴ききつつグラスを磨き、客にエスプレッソを出して、毎日を過ごした。
 彼女のコーヒー指南のお陰か、売り上げは上々で生活に余裕が出来き、毎日が幸せだった。
 例えタイムリミットがあると知っていても、二人は気丈に日々を謳歌した。

 ある日、泣いた女の子が店を訪れた。
 その子はまだ幼くて、きっともうその日の事を思い出すことはないだろう。
 だけど、その子は男達に助けを求めた。
 女の子の話す内容は、泣いてばかりで要領を得るものでなかったけれど、辛うじて孤児院でいじめを受けていると言う事だけは通じた。
 男は悩み、女の子に一つだけ尋ねた。

(´・ω・`)「僕がセイギノヒーローに見えるかい?」

 女の子が首を横に振り、それは男の闘争心のようなものに火をつけた。
 負けず嫌いの男は、幼女の言葉を受けて既にその段取りを模索していた。
 それは仮初の関係にしかなれない事を、男は自覚していた。
 だけど、動かなければならないと言う使命感に包まれて、奮迅の限りを尽くした。
 2人だけ温かい日々は、3人に増えてもう少し賑やかになった。
 笛吹水仙が咲き始める、冬の中ごろの話だった。

34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:02:19.49 ID:mqs8VyyU0
 特別大きなイベントなどなかった。
 彼は毎日をゆっくりと過ごし、最愛の恋人と娘に囲まれ、それが幸せだった。
 玄関の植物に水をやり、ピアノを磨き、恋人の弾くリストを聴く。
 彼女がタバコの煙を嫌がって、バーが禁煙になった事だけがヘビースモーカーたる男の不満だった。

 けれど、時はまるで時計の短針のように、ゆっくりとそして気がつくとあった言う間に男を攻め立てた。
 ある日、男はサプライズを用意していた。
 3人になりまた苦しくなってきた営業を更に切り詰め、タバコを我慢し男は金を溜めた。
 少女が寝静まったのを見計らって、男は恋人に声を掛けた。
 満月が眩しいくらいに窓から照らす、綺麗な夜だった。

(´・ω・`)「……キミにプレゼントがあるんだ」

 女に誕生日を聞き出して、彼は季節外れなアメジストの指輪をプレゼントした。
 誕生日と言うよりも、製造年月日と言う方が正しいのかも知れないけれど、僕の知った事ではなかった。
 それを貰った彼女は一瞬嬉しそうに、だけどすぐに悲しげに表情を曇らせた。

川   - )「ありがとう、僕も君にプレゼントがあるんだ」

 彼女が差し出したのは、紫色の小ぶりなカンパニュラだった。
 男は突発的なプレゼントが重なった事に驚きつつも、それを花瓶へと差した。
 それからしばらく、彼らはピアノにもたれ掛かって語り合った。

35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:04:45.43 ID:mqs8VyyU0
 どれくらいの時間が経っただろうか? 僕らは何かを忘れるように、ずっと話を続けていた。
 ふと、会話が途切れて優しい沈黙が二人の間を流れる。
 僕が次の話題を考えていると、その袖をチョコンとつままれた。
 振り返ると女は潤んだ目をして、僕を睨んでいた。
 何かそれは、悲壮と言える表情で僕はそれを尋ねた。

(´・ω・`)「どうしたんだい?」

川 ゚ -゚)「お願いがあるんだ」

 彼女が自発的に何かを頼むと言う事は珍しくて、僕は少し笑みを浮かべて
 いや、笑みを浮かべようと努力して、彼女を見つめた。

川 つ -゚)「あの子を、ツンを絶対に幸せにしてくれ」

 彼女はもう泣きそうなくらいに瞳を潤ませていた。
 だけど、僕にそれを見られるのが嫌だったのか、片手で覆い隠して、片方の目だけで僕に頼んだ。
 当然、僕はしっかりと頷いて応えた。
 彼女はそれを見て、かすかに笑ったように見えた。
 それは初めて見た彼女の笑顔だった。

 その時、メトロノームが落ちて鈍い金属音を上げ、柱時計が哀哭のように12時を告げた。
 落ちたメトロノームに気を取られた男が慌てて顔を上げる。
 そこに残っていたのは月明かりに照らされ冷めた光を放つ、グランドピアノと床を転がる指輪だけだった。
 その日は、ちょうど一年前に彼らが出会った日だった。

37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:05:58.48 ID:mqs8VyyU0
 話終えて、僕は随分と短くなったタバコを携帯灰皿に突っ込む。
 ブーン君は黙って僕のお伽噺に付き合ってくれた。

( ^ω^)「それで、終わりですかお?」

(´・ω・`)「ああ、おわりさ。言っただろう、陳腐で良くある話だって」

 都会の小さく切り取られた空を見ると、ビルの合間から満月が顔を覗かせていた。
 風が吹いて、僅かに色付いた楓の葉がそれに随伴して踊る。
 街灯に群がる羽虫達を見ながら、僕はもう一本タバコを咥えた。

(´・ω・`)「ピアノ、僕は弾いてみようとしたんだけどね? 女の十八番、リストって難しいんだよ」

( ^ω^)「リストの曲は難曲揃いで、プロでも弾けるかどうか怪しい物も多いんですお」

 素人の弾ける曲じゃないことくらい、僕だって理解していた。
 ただ、もう一度あの曲を彼女に聴かせてあげたいのだ。
 件の男が僕であるとは一言も言って居ないのに、彼は口を挟む事はしなかった。

(´・ω・`)「あの子が不幸だとは思わないよ、ただちょっと今の地点で貰える幸福の量が少なかったんだ」

( ^ω^)「当たり前ですお。でも、あなたは苦しくないのですかお?」

 僕はその質問を煙を吐いて、はぐらかした。
 答えたら辛いと言う感情が事実を伴って、僕を飲み込んでそのまま枯れてしまいそうだった。

38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:07:36.49 ID:mqs8VyyU0
(´・ω・`)「少しでもその遅れを、いや、どんな人間よりも幸福を与えてあげたいんだ」

( ^ω^)「それは約束だからですかお?」

(´・ω・`)「それもあるけど……違うね。自分の娘に幸せになって欲しい、ただそれだけさ」

――だからどうか、娘をよろしく頼む

 だけど、彼は首を縦には振ってくれなかった。

――それと……なあ、もしかして……最後に一ついいかい?

39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:08:07.08 ID:mqs8VyyU0
――何故キミはクーと同じ首飾りを着けているんだい?

( ^ω^)「だから、娘さんを頼まれるのは無理なんですお。その話の後なら、特に……」

 彼の悲しげな笑顔を見ながら、あの時壊れた時計。
 僕は巻きたくても涙が出て巻けない柱時計に思いを馳せていた。

 タバコに飛行機雲が重なって、まるで煙のように天を引き裂いてた。

 


40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:09:21.61 ID:mqs8VyyU0
注釈兼、質疑応答
コーヒーに興味が無い読者に産業で

"く、ら……うせ……? "
チンコをシュッシュッすると出てくる白い魔人
ランプの魔人とかと同類
たぶん

"レバーピストン式のエスプレッソマシン~"
細かい調整可能な機械
上手いバリスタはむちゃくちゃ美味い
でも微調整効き過ぎて難しい

"カプチーノだけじゃない、ウィークコーヒー、ドッピオ、ラッテ 、コレット、マキアート"
全部、エスプレッソの派生
エスプレッソの濃度
または、酒やミルクなどの添加物を加えたもの

"リスト"
「ピアノの魔術師」と呼ばれた男
どんな曲も初見で弾きこなしたというほど演奏が上手い
よって、彼が作曲した曲は難曲が多い

41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 2007/10/28(日) 20:10:59.88 ID:mqs8VyyU0
気が付いた奴が居るかは別として、出て来た植物と宝石

彼岸花:花言葉は「悲しい思い出」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」
センニチコウ:「不滅の愛」「終わりのない愛」「不朽」
サンザシ:「誠実」「私が愛するのはあなただけ」「たった一つの恋」
桜:「優れた美人」「純潔」

オオデマリ:「約束を守って」
アイリス:「あなたを愛す」「あなたを大切にします」
サルビア:「あなたのことばかり思う」「一途」
笛吹水仙:「優しい追憶」
カンパニュラ:「感謝」「誠実」「後悔」

アメシスト:宝石言葉は「平穏」「楽しい夢」
古くから酒の酔いを防ぎ、また酔いを冷まして正気にするといわれている
[ 2008/10/31 00:26 ] 短編まとめ | TB(-) | CM(0)

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